《即死魔法》は現実を直視する
フェイの様子を面白がっているのか、アルニィは悪戯に微笑みかける。
「暫く測ってないからやり方も忘れちゃった?本当に面倒臭いと思ったらやらない人なんだから。」
「わ、わかってるよ!ステータスカードを出せばいいんでしょ!?ほら!」
フェイは気恥ずかしそうに、自分のポケットからチェーンの付いた掌サイズの銀色のプレートを取り出し、カウンターに叩きつけた。それは単なるプレートなどではなく、彼女を冒険者足らしめる《ステータスカード》と呼ばれるものだった。
──────
フェイ《魔術師》
年齢:14
等級D
ATK:35
MP:75
DEF:20
SPD:47
──────
そのプレートには本人のステータスの数値と役職、本人確認のための年齢や等級が刻まれている。フェイがステータスカードを出した際の反応から、自分の能力値をあまり良いものでないと思っている。
フェイが気を紛らわしに壁を見るとそこには金色のプレートが表彰状のように立て掛けられており、一目で自分より格上の冒険者の者であることがわかった。
───
カタリー《魔術師》
年齢:24
等級A
ATK:155
MP:430
DEF:300
SPD:160
────
(かっ……カタリーさんのかこれ。)
ギルドの壁にでかでかと飾られていた金プレートの主は、なんといつもフェイをイビっているカタリーのものであった。流石はAランク冒険者というだけあって、そのステータスの数値は今のフェイからすれば想像もつかない域にあることは言うまでもない。
そのステータスの桁違いな差にひとしきり驚かされた後、フェイはすぐ横にあった別の冒険者のものを眺めていた。
────
アルゼド《重戦士》
年齢:29
等級A
ATK:400
MP:105
DEF:450
SPD:120
─────
─────
ベイルーン《暗殺者》
年齢:25
等級A
ATK:255
MP:260
DEF:285
SPD:300
─────
カタリーの横に立て掛けられているのはどれもAランク冒険者のステータスカードだった。そのどれもが彼女の想像を絶するクラスの高い能力値であり、彼女を含めた誰もが彼らに刃向かえない訳なのである。
冒険者の等級は上からA.B.C.D.Eと続き、特例でSとFが存在する。ステータスの合計値が一定の値を上回ると記録装置からランクアップを言い渡されるという仕組みであるが、正確にどのくらいでランクが上がるのかは明らかになっていない。それでもステータスカードを高々と掲げたAランク冒険者のステータスは合計で千を越えていて、恐らくそこら辺がAランク冒険者としてのボーダーなのかな、とフェイは考えていた。
「おまたせフェイちゃん。ステータスカードの更新終わったよ!最後に測ったのが二年前ってさあ...流石に面倒臭がりすぎじゃない?」
「あはは……ごめんごめん。」
アルニィは苦笑いしながらフェイにステータスカードを手渡す。フェイも苦笑いし返しそれを受けとると、そこに刻まれた自分のステータスに目を通す。いくら自分のステータスに興味がなかったとはいえ、やはり二年も経てばどれ程まで上昇しているのかは気になるものである。
──────
フェイ《魔術師》
年齢:16
等級C
ATK:107
MP:45
DEF:55
SPD:130
──────
──MPが下がっている。彼女が最も気に掛けていた点はそこだった。フェイ自身即死魔法の効果とデメリット、即死魔法の存在がそもそも嫌われている理由はわかっていたようだが、今回の測定によってそれを見せつけられ実感させられる結果となった。
「……。」
「ほ、ほら。それでも他のステータスは上がってるし、Cランクだよ!Cランク冒険者に上がったんだよ?もっと喜んで!」
現実を突きつけられて意気消沈しているフェイをなんとか元気づけようとするアルニィだが、その表情からは焦りと苦悩が伺える。
「でもでもでも、凄いじゃん!他のステータスは全部ちゃんと倍以上上がってるんだよ?誇るべきだよフェイちゃん!」
とにかくフェイのステータス上昇について誉めるしかないアルニィだが、彼女も一応れっきとした《魔術師》である。他のステータスがどうであろうが、フェイにとってなによりも大切なステータスはMP(魔法力)であった。
それを否定して他のステータスを誉められるということは即ち【君は魔術師に向いてないけど、他の役職なら出来そうだよね!】と遠回しに言われているも同然である。
「ひとつのステータスを倍にあげるのだってすっごく苦労するし、それを全部この二年間で上げちゃうなんて、沢山頑張ってt」
「も、もういいよアルニィ!!」
怒声に近いか細くも限界まで上げられたフェイの声が、アルニィの必死のフォローを遮った。でここ
「ごめん...ごめんっ!!あ、あっ、ありがとっ!じゃ、ごめん!!」
「フェイちゃん!?待って……!」
フェイは自分を止めるアルニィの声を無視し、若干うんざりとした様子でギルドの酒場を出ていった。
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