第3話

   ✳︎

 新型コロナ禍の規制を理由にこじつけてクリニックに行かなくなった。俺はまた毎晩飲むようになった。量も増えた。


 改善したいと言い訳のようにアルコール依存症関連の本も読んだ。吾妻ひでお氏の「アル中日記」。中島らも氏の「今夜、すべてのパーて」。前の旦那さんを亡くした西原理恵子氏の著書。等々。依存症に警鐘を鳴らす本なのだが、それを酒を飲みながら読む俺はやはり馬鹿だ。


 そうしていつもの就寝時間の午後9時に寝る。明美におやすみをいい、自分の寝床に。明美とはいつしか別々の部屋で寝るようになった。俺の「イビキがうるさい」んだと。俺は酒を飲むと寝つきはいいんだ、でも午前1時くらいにいつもにが覚める。そこから眠れずムクリと起きだし酒を一杯だけやり、いや、物足りなくなる。寝るためにイヤホンで音楽聴きく。平日なら明日の仕事を危ぶんで、なんとかして寝る努力するんだが。今日は金曜。いやもう土曜日になったか。もう平日ではないということで、一杯では終わらず漫画を見ながら二杯三杯。飲んでも飲んでも酔えない時もある。そうするとカラスの鳴き声が聞こえ、外が白みはじめる。もう一杯、もう4時やんけ。寝るかどうか迷う。


 そして新型コロナの規制も解けた現在。

 

 飲んでも酔えない時もあれば、完全無欠の酔っ払いになることもある。

 そいつは突然やってきた。そいつにとっては突然ではなく日常業務の一環なんだろう。俺はいつものように気持ちよく晩酌をしていた。


 玄関のチャイムがなる。このチャイムは滅多には鳴らない。しかも寝ようとした矢先だ。酔いのせいか腹が立った。もう寝る時間だぞ。誰がこの神聖な時間に侵入してきたのだ。

 こんなに遅く、といっても世間様より寝る時間が早いのだが、それはそれ、自分の生理時間からするとその訪問者に非常識さを感じ、玄関に向かった。


 そこには好青年がいた。


「テレビの受信料のことなんですが」好青年はそういった。もう夜も更けて9時じゃないか。なんか特定商取引法かなんかでセールスの時間って制限があるんじゃないのか。俺は好青年にそういった。なんだかよく分からないことを好青年は言った。よく分からないのは俺が飲んでたアルコールのせいか。よくわからないまま対応して、俺は、この好青年はひょっとしたら詐欺業者ではないかと思う、思い込んだ。俺はスマホで好青年の言動を動画で撮影して記録しようとした。詐欺だったら大変だからな。

 好青年は「やめてください、やめてくださーい」といって早足で逃げ出す。む、これは本当に詐欺業者では。俺はとっさに好青年をおいかけた。俺は心底酔っ払っていた。

 撮影しながら好青年に話しかける。「こんな9時過ぎに訪問してお金の話をするのはおかしいのではないか」怒鳴り声に近かったように思う「詐欺ならそんな仕事はやめなさい」俺は好青年の後をつけまわした。やつは団地を出た。俺はさらに追いかけた。俺は裸足のままだった。それでも奴を追い、団地の回りを巡りながら叫んだ「きちんとした仕事につきなさあい」


 好青年は、早歩きから小走りに加速した。


 逃げる対象をおいかけるのは、人類が狩をしていた時代の本能の名残か分からんが、ともかく俺は腹を立て追いかけ続けた。恐怖にかられたろう好青年はコンビニに飛び込みトイレに避難した。それを見た俺はとふと我に帰った。俺は裸足の上、下着のパンツで外に出ていたのか。パジャマがわりのTシャツは着ていたものの、下はトランクス一丁。トランクスでよかった。ブリーフだったら深川通り魔殺人事件の川俣軍司だ。


 いずれにしろ通報されてもおかしくない出来事だ。警察が来たら俺は連行されていたかもしれない。これはやっちまった。

 ペタペタと裸足で団地の部屋に戻ると明美が俺を探しに出ていたようで、部屋の前で出くわした。バツが悪い。


 調べたら、その好青年の会社に委託していた団体は深夜早朝訪問しても良いという特権があったらしい。すまなかった。好青年。

 暁美にさんざん絞られ、また酔っ払ったとはいえ住居周辺においてパンツ姿で好青年を説教しながら追いかけ回した事実。それが俺を人生最悪の鬱状態に引き込んだ。俺はもうだめだ。

 


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