第4話 校庭でゲート発生
そのサイレンをきっかけに、生徒を庇うようにして視線を向けていた方角へと走り出した教官のその先を見やれば、そこには教科書や資料映像で見たことのある、サイレンの警告通りの【ゲート】が開いていた。
相変わらずの快晴に、似合わないバケモノが次々と飛び出てくる。
国防隊が感知した【ゲート】発生は、皮肉にも養成学校敷地内だった。
「ぇ、あれって……」
「―――逃げるよッ!」
誰かの悲鳴が上がった。それを機にパニックが伝染していった。
次々と危険さを、死をまじかにしていると感じた生徒たちが一斉に走り出す。状況を上手く理解できていなくとも、その危なさは教官や先生たちのおかげで脳みそに刻まれている。
咄嗟に
「
駆け寄ろうとするも人の波に逆らっているからか前に進めない。何度も体がぶつかり合い、その度に訓練服のありがたさを知る。なんて今はそんな感想を述べている場合ではなかった。
逃げ惑う生徒たちの向こう側、教官が向かった【ゲート】がうっすらと見える。よく目を凝らしてみれば、RPGでいう初期装備のままフロウズと構える教官がいた。
武器は本物の、しかし生徒が持つような小銃と同じ形状の対フロウズ銃器。
生徒の安全第一で敵へと向かっていった教官は隊員の鑑そのものだが、やはりいくら何でも無理がある。
「立浪さんっ、」
その瞬間。
自分の事を呼ぶ
その教官はひらり軽やかに大きく舞い上がり、自分たちの遥か頭上を通り過ぎていった。
血しぶきが宙を舞い、ぴちゃ。と肩に血が付く。
鼻を刺激するツンッとした鉄の匂い。
本物の恐怖が体の活動全てを一瞬にして止めた。
「ひぃッ!」
同じく教官の血を浴びたのか、隣を抜けていった生徒の一人が絶望に染まった顔で発した声に、止められていた時間が遅れを取り戻すかのように加速して押し寄せた。
全身の毛が逆立って、心臓が祭囃子のように鼓動し、冷たい汗が一挙に噴き出る。
やばい。これはやばいやつッ……!
「たちばっ、……
「あし、くじいちゃって……っ!」
正しく発声できなかったのは、敵の動きの異常に気が付いたからだった。
教官を倒した次は……最悪っ。
標的にされたのは私たち生徒だった。
校舎から次々と学校で教鞭をとっている教官や先生たちが向かってきていたが、それでは間に合わなかった。
あれは、確実な死だ。
ようやくまばらになった生徒たちの間を通り抜けて
「早く乗ってッ!」
「でもっ」
「いいから早くしてッ!」
おんぶをするから、と
それでも見捨てるなんてことは出来なかった。
「しっかり掴まってて!」
「ひぃ! すぐ後ろにいるよっ」
「んなこと分かってるっ!」
ぐっと踏ん張って、
後ろからの悲鳴やフロウズが発する音などで、すぐ近くにいることは把握済みだけど。
でもどうすることも出来ない今はただフロウズから離れるために走ることしかできない。
先生たちも応援に来てる。駐屯地は学校から近いし、少しすれば国防隊だって駆けつけてくる。
そうすれば【ゲート】から出現するフロウズもあっという間に全個体討伐される。
目の前にはさっきまで自分たちを𠮟咤していたはずの教官がごろりと、変な体勢でこときれていた。
嫌なものを見てしまった。見慣れるはずのないものから目を背け、ついでに
避難さえできれば、こっちのもの。
それなのに……。
ふと、自分たちの走るグラウンドが
一瞬だが、影が素早く移動したのをこの目で捉えた。
「はっ、?」
――――ドゴォォオオンッ……。
轟音と共に安全であるはずの避難場所がある
…………ありえない。
そう思うも確かに自分は、一つ。謎の巨体が避難所のある
何か一個体の強大な力で瓦解し、先に避難していたなずのクラスメートたちの生死もきっと、建物と共にしたのだと明らかな現実が突き付けられる。
「―――えッ、なにっ?!」
律儀に目を瞑っているため状況が理解できない
建物が崩壊した際の暴風に体を煽られ体勢を崩し、後ろで騒ぐ
強烈な
足を負傷しておんぶされていた
一方未だ脳みそが融けそうなほど無茶苦茶な現実に何もできない自分はとうとうその場でへたり込んだ。
後ろでは先生とフロウズたちの攻防が続く戦場。前方では、
いっそ夜に見る悪夢だったらよかったんだけど。現実の悪夢はお呼びじゃない。
「ははっ、うそでしょ……」
やがて姿を明らかにしたその正体に、笑うことしか出来なかった。
――――フロウズの最強個体と謳われる【
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