第2話 養成学校の日常
防衛隊員養成学校生活3年目を1か月前に迎えた今日、先生の話をBGMに窓から覗く蒼穹はその深さで世界の美しさを教えた。
しかしフロウズの襲撃にも耐えることが出来る作りになっている頑丈さを誇る校舎の窓枠には、ごつい鉄骨や分厚いガラスがはめ込まれていて、その情緒でさえ台無しだ。
クラスメートがパラパラと紙を捲る音と、ノートに書き足していくシャーペンの音は心地よく耳を刺激する。その風景は、この世に戦場なんてものを忘れさせるかのようだった。
しかし今もどこかで、バケモノは我が物顔で街を闊歩しているんだろう。
「……フロウズはその個体の特徴によって区別される。最も事例の多いフロウズの種類を、
「はいっ。フロウズの、えっと、主に出現する個体は【ノーマル】で、この個体は単独行動を基本とし、……あ、十分に気をつけて対処すれば私たち訓練生でも倒せますっ!」
「そうだ。しかしこの【ノーマル】がいくら弱いとはいえ、実戦をこなした隊員でさえ注意を怠れば一瞬で命を落とすこともある。油断は禁物。その言葉を常に、心に留めておくように」
生徒は首を縦に振り、先生のその言葉をしっかりと心に刻む。自分はそんな先生のありがたいお言葉を流しながら教科書を捲り、『フロウズ』について書かれたページを読む。
〖フロウズとは、花や木の身に纏ったような姿の異形の怪物の名称。出現当時は出現数の男女差に変わりがなかったが、10年程前までは主に男性、現在はほとんどが女性のような形をしており、その強さは個体ごとに変わる。
稀に男性の形をしている特別個体も存在する。(資料21に記載)
それぞれの特徴にあったランクが設定されており、それをもとに対処・討伐することが求められる。(資料13に記載)
【ゲート】(資料24に記載)と呼ばれる亜空間と現世界を繋いだとされる異様な門から出現し、ただ本能と言わんばかりに人々を襲う個体もあれば、目的があるようには見えない行動をする個体もある。
しかし、その殆どが好戦的なため、素早い対応が必要とされ、民間人の安全を最優先とした行動が基本となる。フロウズは討伐された後に、花が散るように消滅するため死体や残留物が残ることが少ない。また……〗
この学校に通う生徒たちにとってはごく当たり前の文章を読んでいっては、その内容全てを暗記していく。教科書全部を暗記すれば実戦でもテストでもどうにかなるだろう。
なんて、いわば勉強脳筋(バカがやる勉強法)の発想だが、少しして疲れたからやっぱりやめた。
そうしていれば他のクラスメート達は教壇に注目するように言われていたのか、一人だけ頭を下げていたのが目立ち、寝ているとでも勘違いされたんだろう。
「……では、フロウズは桜花歴250年に初めて発現した怪物だが、何をきっかけに出現したと考えられるか。この学校に通っている生徒という前に、この国に暮らす国民にとっての基本知識だから分かってるだろうが答えてもらう。じゃあ……おい、
「え? ……あ、はい」
名前を呼ばれたことに少し驚きながらも顔を上げ、先生に応える。
「はいじゃねぇんだよ! やる気のない生徒はいらねぇんだ。他の生徒の足引っ張るぐらいならとっとと退学しろッ!」
「やる気は……、すみません」
「謝って済むのも今だけだ! もういい、外見てた罰だ。答えろ」
女性とは思えない口調で咎められ、先生の荒い字が躍った黒板に顔を向け、椅子から腰を上げてその場に立つ。物騒な武器を腰から下げている先生など、この学校では普通だった。
プロジェクタースクリーンのホワイトボードには時系列が映し出されており、空欄となった場所を先生は指さしてた。
「21年前に共和国を襲った大地震によって大陸プレートがずれ、地脈の流れが変わったことがきっかけとされてます」
「そうだ。分かってんなら初めからちゃんと授業受けろ。はぁ」
露骨に嫌そうな顔をされたが無視して席に座った。一応問題児ではなく一般学生のつもりなんだけど。
「今はその説が一番可能性があるとされているが、その真相はまだ明かされていない。事実、我らが《
先生も言っていた通り、一般常識となった痛ましい過去の真相は未だ原因不明のままである。そしてその大災害の時から現れるようになったバケモノの正体も。
《
そのどちらもが
フロウズの撲滅を目標に掲げ、鍛え抜かれた隊員を以てしてフロウズ討伐に多く貢献し、国民の安寧を守っている。
しかし全国に基地と駐屯地を持ち、多くの隊員を抱える《
というのも名前と大まかな活動内容だけ紹介され、あとはその組織の
実際の所、《
それでも生徒たちが詳しく知ろうとしないのは、学園を卒業した生徒たちのその多くが《
それは自分も同じなんだけども。
《
「次の時間はグラウンドで実技なので時間厳守」
いつの間にか授業が終わっていたのか先生の声が教室に響き、ぞろぞろと生徒たちが動き出す。自分も机に出ていた教科書一つを仕舞うと頭上から声がかかった。
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