第6話 夢灯篭
新緑の風光る季節が到来すると、巨大な大聖堂のステンドグラスの翠玉のように若葉が颶風と舞い、木の葉は湖上へと落ち、水紋がメッキの剥がれた万華鏡のように揺れる。
湖の深さは運動場一周分の長さほどあるらしく、湖の真ん中にもなると擂り鉢状になっており、潜ったら、もう二度と水辺へ這い上がれないという。
本物で織り成した森林が水面に影絵となって移り込み、豊かな緑風がここではいつでも水浅葱の協奏曲を奏でる。
頭上には霊峰、妙なる高千穂の峰が聳え立ち、今にも竜神のように濛々と火を噴きそうだ。
小学生の頃、何度か、韓国岳や高千穂の峰、新燃岳に登山したんだよね。
入山してから登頂するのに滅茶苦茶きつかったけど、山頂から見える雄大な景色は自分がこの地球で生きている、と実感できるほど感無量だった。
多種多様の固有種である、霧島躑躅やシャガの花、山吹の下枝、凌霄花の硬い蕾、宝石のような野苺やロマンチックな叡山菫、野生のレースフラワーなどの高山植物がそれは口には言い表せぬほど美しかった。
いつか、君とその花々を愛で、見合わせたいな、と鮮明な面影を指先できめ細かなモザイク画を辿るように辿る。
今は山辺も冬枯れしているから目ぼしい野花も咲いていない冬の夜道、新雪は降ってはいないけれども、底が冷えるような手厳しい寒さが着ぶくれた背中を冷やした。木枯らしが吹き荒ぶ常闇の空も暗雲に覆われ、雲間からコバルトブルーのグラデーションを成した凍て空が見えた。
原色のような赤い灯籠が道路脇に等間隔に奉納され、宵の村祭りの序章が始まったと告げる、篠笛の甲高いお囃子が場内から聞こえた。
テントが張られた神楽殿には多くの人が集まっている。人影が人影を消し、ここは天津神が高天ヶ原から降臨する聖地となる。
奥の祓川には狭野尊が幼少の頃、遊ばれたという清らかな小川があり、霧島山の神髄から流れ出た湧水が流れている。
ここに昼間に行くと気持ちがいい。
ポンプで組めば、消毒なしに生で聖水が飲めるし、初夏になったら白い浮草の花が水中に咲き誇り、うっとりするほど綺麗なんだ。
夜更けになると源氏螢や平家螢も飛び回り、野辺に咲いた螢袋に止まって幽玄な異世界へと誘ってくれる。
私は川下のほうへ行った。
「見つけた」
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