第7話 甘い冗談


 ジャンバーの下にある肩がスクンと持ち上がった。


 誰? と私はからかうように呟いた。


「見つけた」


 私もあえて黙っておいた。


「お姫さまは随分と気まぐれだね」


 甘い冗談だ。


 この世の中で私にそんな戯言を言ってくれる人はただ一人しかいない。



「真君?」


 鬱然とした闇の中から切れ長の眼が青く白く映える。


「来ていたの?」


 彼は分厚い茶褐色のコートを羽織りながら頷いた。


「いつの間に? 今日に来たの? バスで?」


 彼は照れくさそうに微笑んだ。



「一人で来たんだ。学校がつまらなかったから」


 前も同じ台詞を言っていたような気がするけれども、私も可笑しくなって誘われるように笑い合った。


 なあんだ、元気だったんだ、と確認できるとひとまず、一安心した。


 ほら、今宵の君はいつもの君のままだ。


 その澄んだ、泉質のような清浄な二つの眼を見た。


 見つめ合ったまま、私たちは直に身悶えながら大いに口に触れたんだ。


 


 初めて上がり框に上がった彼の生温かいクーラーが効いた水無月の部屋の中でこっそりと囁くように。常夏の熱気を真冬なのに感じたように空耳を覚えた。



「神楽に興味があったんだよ。学校に行くより勉強になる」


 茶褐色のコートの裾が私の左手に当たった。


 腕は見えない、良かった、とほっと胸を撫で下ろした。


 二人の赤い秘密も周知されずに済む。



「あの刀は本物?」


 一人の少年が神剣を持って十字に切りながら舞台上で軽やかに舞っている。


 篠笛の音色と鈴の律動が絶え間なく、御神屋から天地長久に向かって速やかに響いている。



「本物だよ。お兄ちゃんも舞ったことがあるの。私も小学生までは神楽舞をしていたんだよ」


 彼は私の話を知るなり、目を丸くした。


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