第6話 カオスオレンジ

「ブラディ、本当にここに本部があるのか?」

新宿一丁目一番地、ゴールデン街にカゲル達はいた。レトロな飲み屋街が古い映写機で

現代に復刻されたように佇み、カゲルはまじまじとそれを眺めた。


「そうだ、まさか、でっけえビルの中に

あるとでも思ったのか…?うちのボスの趣味でな…。あそこに見えるスナックの地下がアジトだ。」


暗がりの中にハロゲンの暖かな光で

ポウッとスナックの看板が見えた。


スナックみよという名のその店は築50年はゆうに過ぎているであろう出立ちでカゲルの前に建っていた。


完成された老婆のような店の扉をあけ

2人と一匹はカウンターの中でこちらを

のぞく老婆と目が合った。


「いらっしゃい、注文は?」


ギブリの映画に出てきそうな典型的な

老婆は誰もが一度は想像したであろう魔女の

声の平均値をこちらに吐き出した。


「ダンサーインザダークをロックで…。

ツレにはカオスオレンジを…。」


「はいよ。」


老婆は器用にボトルを開け、グラスに

黒い液体を注ぎ、ぬばたまのような黒い

オレンジをカットしてグラスの淵に添えた。


「あいよ、」


カウンターに置かれた二つのグラスは

夜のようにゆらめいて2人を誘ってきた。


「飲みな…。かけつけの一杯が俺らの

ルールだ…。」


クィッ


ダンサーインザダークは一瞬でブラディの

闇の中に消えた。そして、微動だにしない

ブラディの内蔵を踊らせていた。


「お酒…。飲んでいいの?」


「アルコールじゃねえ…。向こうの人間の吐き出すカオス、わかりやすくいえば毒を少し混ぜてるのさ…。カオスは15歳からだ…。

飲みな…。」


「にゃおお」


微量のカオスに反応した闇猫の邪魔を

押しのけてカゲルは一気にカオスオレンジを

飲み込んだ。


クィッ


飲んだ瞬間カゲルの内蔵は一度全て点灯し

闇に潜んでいた泥棒、悪魔、子供達に隠された情事、マフィアのアジト、春日関の地下

などなど、全ての悪事を大衆に明らかにした後消灯した。


そして何もなかったように内蔵は日常の中に

横たわり恋人の面をしたように見えた。


「これが…。カオス⁈」


歓喜と陶酔感が泳ぐ瞳でブラディを見つめる


「よお…ジェントルマン…。大人になったところで行こうぜ…。俺らのアジトへ!!」


老婆が三種類あるトイレの一つを指差した


「多目的トイレの中に隠し扉がある…。

いこう…。」


扉を開けるとブラディは隠し扉なるものを

押した。


ギイイイイ


バタン








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