第6話 戦闘試験①

 次は戦闘試験だ。俺の父が最も期待している科目で、俺も楽しみにしていた試験だ。

 学院新入生は皆中庭に案内され、試験のルール説明が行われる。


 戦闘試験のルールはこう。

 まず戦闘はトーナメント形式で行われ、最初は必ず同じ爵位同士で戦う。

 俺は男爵だから他の男爵の者と戦う。試合は相手のギブアップか、審判によるストップで勝敗が決まり、最初の試合に勝った者は試合にて1つ上の爵位の人間と戦う。


 男爵は子爵と。子爵は伯爵と。伯爵は辺境伯と。というように試合をし、俺が子爵に勝った場合は、また1つ上の伯爵と戦う形式だ。

 なんだか身分で戦闘の強弱まで分けてられているように見えるが、単なる生活環境の違いだろう。

 戦闘もその知識も、十分な指導を受けるには金とそれなりの権力が無ければならない。

 勿論金があれば権力関係なく良い師を買えるかも知れんが、俺の家にそんなものは到底ない。


 だが俺には知識がある。

 戦闘試験さえ良い評価を貰えればと父は言っていたが、ただ強いだけでは何も評価はされないだろう。もっと質のいい戦いを見せてやる。


 ルール説明が終わり、戦闘試験の模擬試合が始まった。武器は全員全長80cmの木刀を持たされる。若しくは任意で素手でも良いようだ。

 そうして第1試合。相手は男爵。


「僕はルヴィド! 尋常に勝負!」


 相手は男。木刀は拙い構えで、真っ直ぐ持っているはずなのに何を考えているのか剣の切っ先が震えている。

 木刀の重さは確かに手にずっしりと感じるほどだが、それなりの筋力があればあれほどに揺れることは無い。

 若しくは試合ごときで怯えているのか。


 まぁいい。俺はここで手を抜くつもりはない。しっかりと試させてもらおう。


「俺はハオス。掛かってこい」


「い、行くぞ! やぁあああっ!」


 さてここで試すのは、俺が父にやった最初の一撃の再確認だ。

 体内の魔力で必要な筋肉を膨張させ、余った魔力で木刀の強度を高める。


 すると男は上段の構えから攻撃の宣言をしてから大声を上げて剣を振り下ろす。

 だが遅い。ここはわざわざ身体に当てる必要は無いだろう。

 俺は強度を上げた木刀を、男の振り下ろす木刀にかち合わせるように振るい、その木刀を宙に吹き飛ばす。


 自分のやり方に手を抜くつもりはない。だが、力加減はしよう。

 俺はそこから空かさず木刀で脛を狙った足払い。

 男は顔を顰めさせ、足を抑えながら盛大にすっ転ぶ。


「ぐああっ! あ、足がぁ……」


「そこまで! 男爵ルヴィドを戦闘続行不可能と判断し、試合は終了とする!

 勝者は男爵ハオス!」


 ふむ。一撃で終わってしまったが、この相手なら妥当だろう。


 そうして第1試合が終わり、他の試合を俺は眺める。特に気になる者はいなかった。

 次に第2試合。相手は子爵。


「俺はヴェイグ……戦闘には興味ないからさっさと終わらせてくれ」


「俺はハオスだ。 やる気が無いのか?」


「やる気は……ないな。でもなにもしない訳じゃない。抵抗は……する」


「良いだろう。掛かってこい」


 木刀の構え方はしっかりとしているが、どうも気か狂う相手だ。

 本当にやる気が無く怠いだけなのか。それともこれで相手を油断させるのが彼の方法なのだろうか。

 どちらにせよ。抵抗するなら俺もしっかりとやろう。


「んーお先にどうぞ……」


 体内の魔力に乱れはなく、言葉の割には瞳に確かな闘志を感じる。なんとも曖昧な奴だが、次は圧倒的な威力でその抵抗すらも潰してやるか。


 俺は十分に魔力操作で体内に流れる魔力を安定化させているが、魔法を発動出来るほどに漲ってはいない。

 だから俺は魔力操作だけで、この試合も次の試合も勝ってやろう。


 圧倒的な力。それは至極単純で本当に最大限の力を振るうだけだ。

 俺は足と腕の筋肉に魔力を集中させ、木刀の強度をハンマーほどの鈍器程度まで強く重く作り上げる。

 そうすればわざわざ宣言してから彼に木刀を振るう。


「行くぞ! うおおぉ!」


「なっ!?」


 ブォンと空気を切る音に、彼は俺の攻撃を寸前で避けた。

 次に振り下ろしたその構えのまま存分に身体を捻って、まるで大剣を振り回すかのように勢いよく木刀を真横に向かって振るう。


「君の持ってるのって木刀だよねっ!? 危ないなぁ!」


 彼はまた俺の攻撃をしゃがんで避けると、同時に木刀を俺のふくらはぎに向けて足払いをする。

 しかし、彼の木刀は膨張した俺の筋肉の前で弾かれることなくぴたりと止まる。


「は……?」


「頭が、がら空きだ!」


 恐らくなぜ足払いが通用しないのか。疑問で硬直しているところに、俺は彼の脳天目掛けて木刀を振るう。

 そうすれば木刀から鳴るはずのないゴンという鈍い金属音が周囲に響き、一撃で彼は気絶してしまった。


「そ、そこまでぇ! 子爵ヴェイグの気絶により試合終了! 勝者は男爵ハオス! ……すみません。使っている木刀を見せてくれますか?」


「あぁ。だが正真正銘の木刀だ。魔力で強度を変えてはいるがな……」


 流石に怪しまれたか。俺は素直に審判に木刀を渡す。説明を添えて。


「うお……重い……! 確かにこれは木刀で、魔力操作はルールで制限していませんが……到底木刀の硬さと重さではないため、次は別の木刀を使ってください」


「分かった」


 次は第3試合。相手は伯爵だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る