第5話 全知
それから父と帝都の様々な場所を巡り、4日が過ぎ、入学式の日がやってきた。
その日は一斉に新入生が宿屋から出発し、ぞろぞろと帝都学院の中へ正門から入っていく。
ここからは一人だ。保護者は試験が終わるまで部外者扱いとなり、一切の付き添いを禁止されるようだ。
その時の父の表情はなんら心配そうなものは無く、満面の笑顔で俺を見送ってくれた。
そこから新入生は試験用の教室へ。またここも身分ごとに、次は男爵は男爵と細かく分けられ、それぞれの部屋に案内された。
教室に入ると既に名前が彫られた石のプレートが各席に立てかけられており、どこに座るべきかが決まっていた。
教室の中は、ネームプレートを見る限り名前順に部屋自体が全部で5段。階段状に分けられており、俺の席は教卓から見て5段目の左端にあった。
そしてその席には既に真っ白で何も書かれていない紙が置かれており、その紙にはとても軽い幻惑魔法が掛けられていることをすぐに見抜く。
と言っても単に問題文を隠すためのもののようだが。
どうやら最初に行うのは筆記試験のようだ。白紙に隠された問題文をさらっと読めば、魔力に関する基本的な問題ばかりだ。
まぁ、それが基本であるかどうかは人間基準だろうが。
俺は案内された教室にある自分の席に座り、続いて他の新入生も自分の席に座れば、最後に教師らしき人間が入って入口のドアがピシャリと閉まる。
そしてその人間が最初に口を開く。
「よし、これで男爵家は全員だな。
それではこれから、入学試験の筆記試験を始める。私がこの教室の監督だが、言うまでもないがカンニングするつもりなら諦めろ。
見ようとしても、見れないようになっているからな……」
監督の言う通り、自分の席から隣の席の用紙を見ようとしても、阻害魔法によって紙すら机に置かれていないように見えた。
「試験が始まったら紙に問題文が表示される。制限時間は45分。時間内までに問題に答えると良い。何か質問あるか? 無いのか? それなら良い。それでは、始め!」
監督の合図と同時に、机に置かれた白紙に隠された文字が浮き出る。
さて、さっさと答えてしまおう。
問題1.
魔力は大きく2つに分けて、体内を流れる物と空気中を漂う物があるが、それぞれ何から成り立っているかを答えよ。
A.体内は
神の体内には存在しないが、人間とその他の動く生物には、みな勿論心臓が存在するが、その心臓やその他の臓器全ての働きに必要不可欠な物が魔核と呼ばれる物だ。
位置は心臓の中にあり、例え心臓を撃ち抜かれるなどの致命傷を受けても、魔核が残っていれば助かる。
また、脳を破壊されるなどの即死ダメージを受けても、魔核はこれを強制的に回復し、生物を半分生きている状態に戻す。
これが体内を流れる魔力の正体だ。
問題2.
人を含む生命全てには、必ず保有出来る魔力の最大値がそれぞれ最初から決められているが、この最大値を引き上げる方法を記入せよ。
A.魔核に自然魔力を直接吸収させる。
これは草や花などを食べる草食動物ならではのやり方で、人間が出来る方法では無い。
何故草食動物は出来るのかと言えば、単純に体の構造が違うからというだけで、これを答えに選んだ理由は俺なら可能だが問題文に『人の魔力最大値を引き上げる方法』とは書かれていないからだ。
まぁ、今の俺は6歳の人間の子供だ。『正解だけど見当違いな答えをする』のなら、妥当だろう。
問題3.
全ての物質と生命の体は『魔力細胞』で構成されており、この細胞の結合力を高めるには魔力を物質に付与するのが方法だが、これのメリットとデメリットを答えよ。
A.魔力を付与すれば物質の硬さが上がるが、武器などに付与しても最終的な威力や効果は、本人の能力に委ねられるため、結果的に魔力の無駄になることが多い。
俺は父との初の稽古の際に木刀に魔力を付与したが、あれはあくまでも全く鍛えていない人間を強く見せるための見せかけに過ぎない。
通常では簡単に折れてしまう木の枝でも、鋼のように硬くすることで、誰でも人を殺せてしまう武器と化するが、魔力細胞が元から少ない物質をそこまで硬くするにはそれ相応の魔力が必要であり、実戦で使うにはあまりにも現実的では無い。
だから、そこで同時に魔力で自身の筋肉を強化した訳だが、そのように本人の能力自体が低ければ、どんなに武器を硬くしても意味が無いということだ。
つまり、手取り早く強くなるなら効果的だが、本当に強くなりたいなら自分を鍛えるのが最適だということ。
俺は白紙から次々と出題される問題を、わざと中途半端な知識を使って答えていく。
中には、人間にとっては引っかけのような神話に関わる問題が含まれているが、ここだけ自信満々に答えて行き、通常の問題には微妙な答えをしていく。
そう、人間でいう歴史・神話マニアを演じていく。
あぁ、この行動に特に深い意味は無い。全てを知る俺がこんな問題に真面目に答えていくのもつまらないからな。
神特有の遊び心というやつだ。
さて、全ての問題を解き終えた所で丁度試験の時間切れを知らせる音が教室中に鳴り響く。なかなか満足のいく問題の数々だった。
そうすれば、目の前にあった問題用紙は瞬きをする間にすっと消えていった。
「よし、これにて筆記試験を終了する。結果は全ての試験終了後に渡すから、全員早々に次の試験会場に移動しなさい」
次は戦闘試験だ。父が最も期待している項目で、俺にとっては試したいことが山ほどあるものだ。
俺は以前は神でありながら、人間に成り代わって下界に降りることが度々あったが、それら全ては俺が自ら作った人間の中の最強の体を使っていた。
だが今回は体が弱いどころか、魔法に対して未熟な体のため、この体がどこまで耐えられるかを調べる必要がある。
まぁ、無理をすれば死ぬかも知れんが、そう恐れることでは無い。
自分で応急処置くらいはできる。
そう考えながら俺は席を立ち、戦闘試験があるという学院の中庭へ案内された。
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