第4話 帝都
ロード帝国学院に入学するために、より良い結果を出して、学院生活を有利にするために、俺は父と毎日稽古をすることまた1年が経過し、俺は6歳となった。
人間にとって1年は感慨深いものが残るほどに長いが、神にとっての1年はまばたきするだけで終わる。
産まれてからこの6年間。本当にあっという間だった。
俺はその日はロード帝国学院入学式の1週間前で、身支度をして家を出る準備をしていた。
入学式は父と一緒に行くことになり、最底辺のヴァロノス家だからこそそれなりの服さえも無く、どの服よりも比較的小綺麗に見える服装を選ぶ。
とは言うものの、どうしてもほつれや褪せた色は目立ってしまう。
たしか男爵と言っていたが、こんな家系をいつまでも貴族として残すとは、帝国はなにを考えているのやら。
俺はそんなことを考えながら、両親がなけなしの金で手配した、もはや送迎用とはとても言えない馬車に乗り込む。
はて、本当にこれが最低でも貴族と言って良いのだろうか。
俺が乗り込むと、続いて父も乗り込む。
そうして父は馬車の操者に発進を伝えるために、内側の壁をノックする。
「あぁ、久しぶりの帝都だ。我々ヴァロノス家が帝都に行けるのは、こういう特別な日のみだからな……!」
馬車が発進を開始すれば、父は窓から家がだんだん遠のいていく景色を見ながら、まるで子供のように目を輝かせる。
「歩いてはいけないの?」
たしか馬車でも3日掛かることを思い出しながら、時間が掛かっても徒歩ではいけないものかと。単純な質問をした。
「そうだな。行けなくはない。ただ……到着には2週間以上かかる上に、道中の魔物を到着までに捌き切れるとは思えない。
それと食糧も保つかどうか……」
理論上行けなくはないが、ヴァロノス家の身体能力の低さと、帝都までの距離は最早旅に出るほどで、絶望的であると知った。
「そう……」
「ハオスは帝都に行ってなにか楽しみにしたいることはあるか?」
「特に。強いて言うなら入学試験かな。父さんとの稽古の成果がどれだけ出せるか楽しみだ」
本音は筆記試験の問題についてだ。俺の知識がこの世界でどこまで通じるかが楽しみだ。父との稽古の成果は、あくまでも父のことを持ち上げるために言ったこと。
「おぉそうか! そうだな! その時は全力を出してこい。入学試験の評価は、単純に言えば第一印象みたいなものだ。
出来るならやりすぎても構わないぞ。ハッハッハ!」
「やりすぎかぁ。そんな力が有ればいいけど」
そう父と談笑しながら、3日間馬車に揺らされながら、1日ごとに野宿を済ませて、帝都にようやく到着した。
帝都に着くと既に他の馬車の列が帝都の入り口であろう大門まで並んでおり、そのほとんどが4日後にある帝都学院入学式に備えた親子連れだった。
だが、その服装も見れば分かる通り、俺と同じで服装がみすぼらしい物が多かった。
つまり貴族の爵位が低い者や、貴族ですら無い一般の帝国民はみなこうなのだろう。
そうしてそんな馬車列を並ぶ所2時間程でようやく我々の出番が来た。
帝都の大門が見えるのは、巨大な円形状だろう外壁で、壁にはこれでもかと言えるほどの絢爛な装飾が施された煌びやかな外壁が大門の左右に続いていた。
ただ少し外部の魔力へ意識を集中すれば、ただギラギラした壁ではなく、莫大な魔力の障壁が作られていることが見えることから、見た目だけではなく、防衛力もそれなりに備えられているのだろう。
次に俺の馬車は大門に門番として立っているのであろう2人の騎士に止められる。
騎士のなりは、壁の装飾とは裏腹に白銀色の鎧を全身に纏い重装備にも見えるが、魔力細胞の数を見れば鋼より脆く鉄とほぼ同等の硬さだと伺える。
まぁ、世界で最も人口が多い国と呼ばれているから、品質より量産性を重視したのだろう。
「はい次の方〜、身分証をお見せ下さい」
身分証か。これはどの世界でも共通だな。だがこの馬車の列を見れば分かるだろう。どうしてこれでも必要なのだろうか。
俺は馬車の中で隣に座っている父に質問する。
「……? 父さん、僕たちは帝都の人なんでしょ? なんで証明しなくちゃいけないの?」
「あぁ、そうだな。たまにこれでも帝都以外の人が混ざったり、悪い人が紛れ込んだりするからだろう。
でも安心しなさい。私たちはヴァロノス家だが、流石に身分証はあるぞ」
身分の低さについては聞いていないが、ここまで外からくる攻撃に備えて作られた立派な外壁があるというのに、門から直接入ってく部外者は防げないとでも言うのか。
「へー」
「はい。これ、身分証です」
「なんだヴァロノスのお宅ですか。はい、お通りください」
ヴァロノス男爵家は社会的地位も低い上に周囲からの信頼も低いのか。
はて、父は入学試験において戦闘試験だけでも高評価を取れれば良いと言っていたが、門番の騎士からでさえも評価が低いとなれば、試験の評価依然の問題ではなかろうか。
父の顔をふとみれば、騎士の小言に対してなんら表情は変わっていない。いつもことだと吹っ切れているつもりか。
そうして俺は馬車に乗りながら大門を通り、ついに帝都の内部へ入った。
帝都の中は、外の壁程に豪華では無いが、緑や青、赤、茶色や黄などカラフルに染色されたレンガ造りの家々が立ち並び、全ての家屋が均一の高さで建てられ、大門から町の大通りに入った時の視覚情報にバラつきが無く綺麗にまとまった印象を受けた。
ふむ。やはり人間の考える建築は素晴らしいの一言だ。神界は基本真っ白な空間で、これと言った区画は決められておらず、そもそも建物すら建っていない殺風景だ。
いつか神界に戻ったら人間の建築風景を模倣しても良いかもしれない。
また大通りに出れば、やはり入学式の日が近いのがあるからか、祭りの前準備とも言えるほどに多くの人間が、ぎっしりと詰まっており、ただ馬車の列の分だけ広い道が空いていた。
さて、帝都に入ったはいいがこれからこの馬車は何処へいくのだろうか。
「父さん、これからどこに向かうの?」
「そういや言ってなかったな。馬車で帝都に入ったら、入学式当日までに新入生専用の宿屋で寝泊まりするんだ。
専用と言っても勿論、在学生の先輩も様子を見にくるから、態度を良くするんだぞ。
我らヴァロノス家は歴代の成績の悪さに悪名まで付いているからな……」
父はため息を吐きながら俺の質問に答えた。
街全体の評判はどうでもいいが、学院内の評判が一番気になるといったところだろうか。
評判や評価が低いと、学院生活が不利になると言っていたが、こうもため息を吐きながら心配そうな表情をされては、不利とは具体的にどういうことなのか気になってしまう。
まぁ、今まで作った世界で言えば虐めや省きが考え得ることだが……。
「そうなんだ……」
そんなこんなで父と馬車で町の大通りを通っていると、正面に他の家屋とは違う。高さは同じだが、赤いレンガ造りの横に長い建物が見えた。
他の建物は、この建物を避けるように道が回り込むように作られており、この建物がそれほど重要な物だと伺えた。
「よし着いたな。ここが、新学院生専用の宿屋だ。勿論これとは別に専用の学院寮という物があるから、入学式が終わったらここに寝泊まりする訳ではないから安心しろ」
「うん。分かった」
そう父に説明して貰えば俺と父は馬車を降りて、横長の建物の真ん中に備えられた広い入り口へ向かう。
またここでも俺を含む新入生だろう親子連れの人々が長蛇の列を作っており、また待つのかと思った。
さらに既に宿屋の近く。新入生の列とは外れて灰色の革の生地で作られたロングコートに、灰色のニットベストと白のワイシャツからそれぞれ赤、緑、黄のネクタイが垂れ下がり、下は黒のスーツズボンに黒の革靴を履いた。
この学院の制服だろう姿の人間が集団で集まるなり、一人で列の人々を見つめるなりする者が散見できた。
あの者らが恐らく俺の先輩に当たる者だろう。
そうして長蛇の列を待つこと1時間。ようやく建物の中へ入り、宿屋の受付のところまで到達する。
受付では門番と同じで身分と名前を言うだけで通ることが出来たが、この宿屋では身分で部屋が分けられることがわかった。
俺より1つ先に受付に身分を伝えた者の話しを聞けば、『侯爵』と言っておりすぐに受付から右へ流され、俺は左へ流された。
それから部屋を案内される前に俺の後に来た者は『辺境伯』と言えば右へ流された。
この光景に差別。と考える人間もいるかと思うが、要は単純に区別しているだけだろう。俺の偏見ではあるが、爵位が高くまた身分の高い人間は、良く低い者を下に見ることが多い。
つまり、この時点で身分が低い者と高い者が同じ部屋で暮らすことは難しいと言える。
この区別は差別ではなく、あくまでも学院側の配慮とも言えるだろう。
そのように俺は受付から右へ、部屋を案内された。この建物には全部でどれだけの部屋数があるのか定かでは無いが、新入生の数全員分の部屋が個別に作られていた。
俺が案内された部屋は、豪華な模様のカーペットに左右に大きなベッドが2つと、2つのベッドの間に楕円の丸机が1つ置かれていた。約20畳半ほどの広さだった。
さて、俺はここであと4日。入学式まで過ごすのだろう。
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