第3話 魔力
世界の物事と現在地の情報を理解した4歳からまた1年が経過し、俺は5歳となった。
5歳になってから、俺の父にあたる人間アロン・ヴァロノスは、今まで教えなかった戦闘の基礎を学べと言ってきた。
どうやら6歳になると、ロード帝国では学校であるロード帝国学院という施設に入学する義務があるようで、そこでは最初に必ず失格合格問わず、試験を行うという。
その試験の中にあるのは、筆記試験と戦闘試験。
筆記試験はそもそも事前に何かを学べる施設を利用するほどのお金も無いため、合格は望み薄だが、戦闘試験は多くの人間に見られながらやるので、ここでイメージを悪くさせれば学院生活にて不利なことになる。とのこと。
まぁ学院に入りさえすれば、魔力操作の練度を格段に上げられる可能性があるため、そこでの生活がどうなろうと俺の知ったことでは無いが、ここは合わせよう。
「ハオス。我々は男爵の家系だから、資金もなくその血筋も弱い者続きとなっている。
特にヴァロノスの家系は、学院において良い結果を出したことが無く、これだけで既にイメージは悪い。
だが、今度こそ私は挽回したいのだ。5歳になったお前には悪いが、猶予はあと1年しか無い。厳しく行くぞ。
とはいったものの、まずはその手に持つ木刀で私を叩いてみろ。どれだけ力があるかを先ずは見よう」
俺は父の発言に頷くと、右手に持つ木刀を両手でしっかり構える。
さて、俺は確かに魔法の素質は皆無に近い。しかし、魔力をどう使えば良いかの知識は豊富だ。
世界を創造するにおいて、魔力の作られ方と生体への影響の仕方を何万通りも作った俺に、知らない方法は無い。
「ふむ。構えは……まぁいい。いつでも掛かって来なさい」
俺の産まれた家系は昔から血筋が弱く、今までに良い結果を出した人間はいないらしく、また今目の前にいる父も、俺がまだ子供だからと見限っているだろう。
確かに現在の俺は子供で、体も人間だ。だが、知識は神そのもの。才能など、その知識でいくらでも補えるものだ。
俺は両手で木刀をしっかり構えると、周囲に漂う微量の魔力と、体内を巡る魔力の流れに意識を集中させ、非常に遅くも、魔力操作を実行する。
体内の微量な魔力をゆっくり循環させ、今必要な力へと変換していく。
地面を踏み込む足と、木刀を握る両手へ。
次に周囲を漂う魔力を体に少しずつ吸収し、全身の筋肉を膨張させる。
これで準備完了。
「……」
父は俺の動きに何かを察したのか、無防から攻撃に対処するための構えに変更する。
相手も用意が出来たなら行こう。
俺は最初に地面を蹴るために、足に集中させた魔力を小さい力ながらも、軽く爆発させることで、最初の踏み込みのスピードを上げる。この時、俺の足元では弱く砂塵が舞うだろう。
「速い……ッ」
父の小声が僅かに俺の耳に届く。父の構えは、より正面からの衝撃に耐えられる守りの構えに転ずる。
父がそうするならば、俺はそれ相応の力を引き出すのみ。
俺は両手に込めた魔力を小規模に開放し、木刀へ魔力を付与することで、木刀の魔力細胞の結合力を高め、木刀をより硬い物資へと変える。
この魔力操作法は、それなりの硬度を持つ鉄の剣には無意味だが、木の枝や投擲用の小石などその場で拾った武器には有効で、今の俺にはまだ無理だが、最終的に人間を一撃で殺傷を可能にする武器へと変えることが出来る。
俺は父の体ではなく構える木刀に向かって振り抜く。
そうすれば、俺を子供だと見限っている父くらいなら、木刀を弾き飛ばせるくらいにはなるだろう。
「なにッ!? くぅッ……!」
想定通り、父が持っていた木刀は宙へ弾かれ、どれだけの衝撃が父に伝わったのか。木刀を持っていた片腕を抑えて膝をついた。
「馬鹿な……! なにが起きた……? ハオス……今なにをした……?」
俺は軽く微笑む。
このように聞かれ、咄嗟に神だからと答えそうになるが自制する。
いずれ、俺は神だと父に伝えるつもりはあるが、まだそれほどの力を俺は有していない。だから俺は事務的な声で分からないと答えることにした。
「自分でもよく分からない。父さんに絶対勝ってやると思って剣を振ったら、物凄い力が出た」
5歳の子供なら妥当な答え方だろう。
「そうか……そうか……。ついに我らヴァロノス家に才能ある子供が……産まれたのか……これは聖神アリシア様の恵みだ。
代々長年苦しんでいた我々に慈悲をお与えくださったのだ……!」
父はそういうと、正面に両手を組んで祈りながら涙を流した。
おぉ、アリシアよ。お前は意外と下界の人間からは好まれていたのだな。
神界にいた時は分からなかったが、ここまで信仰深い人間がいるのは、喜ばしいことだ。いつか神界に戻ったら評価しても良いな。
「えっと……父さん。これで、いいの?」
「え? あぁ、すまない。今の一撃でわかった。大人の剣を弾き飛ばすなんて、普通なら無理だ。
特に子供の力では到底な。だからこれから毎日1年間、6歳になるまで剣の稽古をするぞ! よいな?」
「はい。分かりました」
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