第2話 信仰

 人間の母の腹から産まれて、早4年が経過する。人間の子供はこの歳辺りから物分かりがある程度分かるようになるが、俺はこの歳になるまでずっと人間の生活と言葉を理解していた。


 これまで理解したこの世界のことを簡潔にまとめよう。

 まず、俺が産まれた場所について。


 俺が産まれたのは、ロード帝国。帝都から西部にある緑豊かな平原が広がるヴァロノス領に建つヴァロノス邸にて産まれた。

 そして俺の名前は、運良くもカオスの別の呼び方であるハオス・ヴァロノスと名付けられた。


 ヴァロノス家はロード帝国の貴族で、爵位は男爵。

 男爵だから。という理由なのか。帝都から馬車で3日も掛かる距離にあり、なかなかの不便さを強いられる地に生まれたことになる。

 ただこのハオスと名付けられたこの体は、両親から良く愛されており、勉強や稽古の強制はされなかった。


 まぁ、俺自身は勉強も稽古も一切しなくとも、自室でこの世界に関する書物と、微量な魔力の流れを感知することで、少しずつ魔力操作を可能としているから、なにも問題は無い。

 次にそのロード帝国についてだ。


 ロード帝国は、この世界で『七大国』と呼ばれる中の1つに選ばれる程の大国で、聖神アリシアを信仰する宗教国家のようだ。

 アリシアは生命の再生と繁殖を司る神で、ロード帝国は、七大国で最も人口が多い国と呼ばれているらしい。


 ただアリシアは俺も良く知る神で、まさかこんな全くの別世界に知る神がいるとは思わなかった。勿論、どんな神なのかも俺の知る知識と一致している。

 アリシアは生命の再生と繁殖を司る神で、同時に不殺の誓約を課せられた神だ。

 どれだけ生物を作り、どれだけ見守っても良いが、決して自らの手でそれを殺してはならない。それが不殺の誓約。

 ただ性格は基本おっとりとしており、誓約の意味を果たさないほどに優しい神として、知られている。


 生命という生きるもの全てを愛しており、不幸にも死んでしまったものを、信者の熱い祈祷だけで稀に五体満足で復活させてしまうという気まぐれ持ちだ。

 勿論、そんな行動は神の中ではタブーであるが、『アリシアだからいいか』と、他の神の間でも暗黙の了解されることが多いと、なかなか思い出深い女神だ。


 それはさておき、つまり現在俺は、そのアリシアを信仰しなければならない立ち位置にいる訳だ。

 神が神を信仰するとは、どこまで俺をコケにする気だ。


 ただこれを知ったことで丁度この歳になって俺のやるべきことが生まれた。

 それは、信仰と祈祷による神との交信だ。


 俺は今の4歳まで両親に言われながら、渋々毎日お祈りを続けているが、正直いって現段階では無意味な行動だ。

 信仰と祈祷とは、『信じる神にお祈りをして、日々の生活や出来事に感謝の意を伝え、魔力を少しだけ神に返還する』意図がある。

 これをやることによって、神から稀に恩恵を与えられることがあるが、ほぼ気まぐれに過ぎない。


 本来神なら、誰でも常に他の神と交信することが可能だが、人間はそうはいかない。

 人間と神が間接的でも会話を可能にする条件はただ一つ。

 超莫大な魔力で、神に侵食すること。

 『神に侵食』といえば聞こえが悪いが全くその通りで、これには神の意識を強制的にこちらへ向けさせるという意図が含まれている。


 勿論こんな行為は下界の人間の中では、可能だと分かっても、異端や冒涜だと思われており、例え現4歳の俺でも両親にこんなことをやりたいなんて言えば、100%面倒なことになるだろう。


 さて、簡単に現在の目的を定め、考えを纏めた訳だが、生憎俺には魔法どころか魔力の素質がほぼない。

 赤ん坊から今の歳になるまで少しばかりのウォーミングアップしていたから、幾分かマシにはなっているが、現在の最終目的である神との交信は到底不可能だ。

 だからまずは魔力を操作し、魔法をまともに使えるほどにしなくてはならない。


 これから何をしようか。

 

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