頁03:私とは 2
お互いの立ち位置、部屋の間取り、周囲の家具の配置、床の硬さ、相手のおよその体重、重心。
───はぁ…、この会社で働くのもここまでか。
掴まれた
普通に投げたら私が背にした壁に激突してしまうので、何もない床に落とせる様に少し向きに
「………え?」
何が起きたのか理解が追い付いていない社長が間抜けた顔で私を床から見上げた。
「この場限りで辞めさせて頂きます。お世話になりました。必要でしたらば辞表は後日お届けに上がります。よろしいでしょうか」
「え……あ…? は、はい……」
わずかに乱れた服の
警察官だった父が護身の為にと自ら
父の
それなのに、嫌で嫌で仕方なかった
背後から迫る小さな足音に気付くのが遅れたのだ。
「───あ───」
背中に燃える様な激痛。振り返った視界にいたのは…怒りに顔を
「なんで……なんで邪魔するの…!!」
邪魔……? 私が?
現状に思考が追い付いたのか、社長が大声で叫ぶ。
「お前…馬鹿! 何て事するんだ!!」
「あなたのせいでしょ!! 私を捨てようとしたから!! だったらせめてこの女とくっつけてから離婚して慰謝料だけでも取ってやる
それはそれは…ご説明ありがとうございました…。下らなさ過ぎるので座ってもいいですかね……。座りませんけど。
「
社長がどうしていいか分からずにオロオロしている。
私が倒れていれば抱きかかえでもしたのかもしれないが、
倒れる前にこれだけは言いたかったからだ。
「実際にお会いするのは初めましてですね、奥様。───
ですわ、なんて生まれて初めて言ったかもしれない。
「!!!!」
怒りに我を忘れた獣が1本の鋭く
私にはそれを
ならば終わり方くらい、私が思う正しさで終わろう。
迫る死に真っ直ぐに立ち向かい、静かに目を閉じる。
直後に腹部から全身へと突き抜ける痛みと衝撃。体を支えられなくなった足を恨む事無く私は天井を
視界の下の方に見える、垂直に立って細かに上下する金属。ふるふるとした動きは私の
そんな物を観察している自分のシュールさに笑いと涙が込み上げた。
「───お父さん……、私も、間違っちゃった…みたい」
「え、何が?」
場違いに間の抜けた声が、私の
(次頁/04-1へ続く)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます