第2話 幼馴染の同輩に見透かされる

「星那ちゃんだーーーーー!」

「あ──光希先輩、制服どうですか?」

入学式と簡単な校舎案内などが終わり、放課後となったところで、星那の教室へと出向いた。

星那に抱き着くも、華麗に無視されて「もーまたイチャイチャしてぇ」と茶々を入れてくるのは、俺の幼馴染で同級生の西園夏鈴。

相変わらず元気でうるさいのはいいけど、昨年度までは黒髪だったボブカットを何故か金髪に染めていた。

まあ、こっちの方が夏鈴らしさは出てる気もするけど。

「めっちゃ似合ってると思う」

俺がそう答えると、星那は「うふっ」と笑みを零して身体をくねくねさせる。

星那の黒髪ロングが純白とも言えるほど真っ白な制服に映えていて、星那の清楚さや綺麗さをより一層の引き立てるようだった。

「あれ?もうメイク覚えたの!?凄い……」

「母がその手の事に煩いので、仕方なくですけどね」

俺にはさっぱりだけど、今日の星那は夏鈴が褒めるほどに完璧なメイクをしているらしい。

どこをどう見ても、いつも通りにしか見えないけど…

「やっぱり、恋する乙女は行動が早いんだねぇ」

「そんなんじゃないですから」

「ちなみに、光希は最近彼女ができたんだよ?」

「え、本当ですか?誰ですか?」

「二年二組の西園夏鈴ちゃんって言う完璧美──」

「もういいです」

この一瞬のやり取りで、星那はニヤついてた顔が更に酷くニヤつき、星那は星那でコロコロと色んな表情を見せた。

こんな喧嘩にも見えるやり取りも、一年ぶりとなると仲睦まじく感じる。

「星那、まじの話だぞ。これ」

久しぶりに、そんな悪ノリをしてみると、星那は「えっ」と声を漏らしたきり、全く動かなくなってしまった。

夏鈴はと言うと……

「ヴェ!?そうだったの!?ウチら付き合ってたの!?」

と言った様子で、かなりオーバーにリアクションをされる。

「そんな訳ないだろ…夏鈴が始めた悪ノリなんだから、最後まで続けろよ……」

周囲からの目もあり、恥ずかしくなってしまう。

学年で一二を争うくらいにはモテてる夏鈴と、パッとしない俺が付き合ってる。なんて噂が流れたら、たまったもんじゃない。

もう少し場所を考えないとだめか……

「よかった……」

何故か安堵した表情で戻ってきた星那がそう声を漏らし、ホッと一息つく。

「星那ちゃん、今日光希借りてっていい?」

「なんで私に聞くんですか」

「だって────」

「…っ!?」

夏鈴が星那に耳打ちするようにしたため、何を言ったのかは分からないけど、夏鈴が口を閉じて首を傾げると同時に、星那はボフッと頭から蒸気が上がりそうなほど顔を赤くする。

「だよねー!」

満面の笑みでそう振ってくる夏鈴だけど、全く分からないからとりあえず黙る事にする。

しばらく夏鈴の独り言が続き、「じゃあ、借りてくねー」と言って俺の手を掴み、歩き始める。

今日は夏鈴に誘われてカラオケに行く予定だったから、せっかくなら星那もと思ったけど、そんな間もなく距離は空いてしまった。

「星那は誘わなくていいの?」

「星那ちゃんには、まだ早いからねー」

「カラオケに早いとかないだろ…」

「あるから呼ばなかったんだよ」

夏鈴はそう言い張るけど、カラオケなんてもう何回か星那とは行った事があるし、なんならそこに夏鈴がいた事だってある。

もう嫌な予感しかしないけど、逃げさせないと言わんばかりに強く手を掴まれる。

「誰と何をするかだけ教えてもらってもいい……?」

「かわいい女の子と、かっこいい男の子と合コンをします!」

やっぱりか……

夏鈴は色んな高校の人と繋がりがあり、毎週のように他校の生徒と遊んでいる。

それでも彼氏ができないのは、持ち前の友達感の強さからだろうか。

「もっと早く言ってよ…」

「だって、言ったら来ないでしょ?」

「当たり前だろ」

「光希にもそろそろ恋愛してほしいなーって」

「どの口が言ってるんだよ……」

「ウチは想い人がいるからいいの!光希は好きな人すらいないでしょ?」

さすが幼馴染と言うべきか、夏鈴にはお見通しなようで、俺のためと言う名目で開かれる合コンらしい。

と言うより、夏鈴にも好きな人がいる事に驚いた。

誰かは追求しないけど、陰ながら応援はしておこう。





やがて合コンなるものが始まり、俺は隅の方で静かに見守る形で参加していた。

一人で抜けるのも考えたけど、夏鈴が俺のためを思って開いたんなら、それはできない。

「光希さんかっこいいですね、こんなところに来ちゃって、彼女さん大丈夫なんですか?」

黒髪ロングに綺麗な顔立ちと言う、星那を彷彿とさせるルックスの女子に話しかけられるけど、星那と決定的に違ったのは、腕やら脚やらを撫でてくる事だった。

嫌悪感が半端じゃなく、目線で夏鈴に助けを求めるも、夏鈴からは「自分でなんとかして」と切り離すような視線を送られる。

「彼女いないんで…」

「へぇ〜」

名前も知らないこの女子は、俺の胸に耳を当てるようにくっ付いて来て、甘えモードの猫のような仕草で俺を見上げる。

長い爪で円を描くように胸部で動かされる。

拒絶しようとはするものの、見ず知らずの女子を突き放すのもどうかと思い、固まるしかできない。

「ねぇ、今から二人で遊ばない?楽しい事しようよぉ〜私、こう見えて上手なんだよぉ〜?」

そう言う誘いだって事は、もうこの年齢だし、経験がなくとも分かる。

夏鈴は今世紀最大のニヤつきを見せてるけど、本当に助けてほしい…

「遠慮しておきます」

「キスだけでもしてみない?気が変わると思うの」

「しません」

「私の事嫌い…?」

今度は捨てられた子犬のような表情でそう訴えてくる女子だけど、別に好きでも嫌いでもない。

「初めましてでこれだけ距離を詰められると、怖いと言いますか…」

「そうだよね…怖いよね……」

一番怖いのは、こんな状況なのに全く助けてくれないこの場にいる人達なんだけど…

「ですです。まだ名前すら知らないですし、遊んでも楽しくないかなーと」

俺がそう言うと、その女子は泣き始めてしまった。

演技なのかガチなのか分からないけど、申し訳ない気持ちにはなった。

夏鈴の方を見るも、相変わらず放ったらかしと言った様子で、楽しそうに会話をしていた。

「ほーら、もう…吉岡君困ってんじゃん……」

困り果てた俺の前に現れた救世主は、金髪ロングで、制服をかなり着崩していて谷間が露になっている、いかにもギャルな女子だった。

「ほんと、ごめんね?こいつ親がちょっとアレでさ。こいつも辞めたいとは思ってんだけど、三つ子の魂百までって言うでしょ?」

深くは語らないけど、その苦笑いからなんとなく察しが着いてしまう。

勝手に家庭事情を察するなんて、俺も俺であれだな……

「いや、こっちこそすみません…こう言うの初めてで、よく分からなくて」

「まあまあ、しょーがないって事よ。吉岡君が良かったらなんだけどさ、友達になってあげてくれない?──」

金髪ロングの女子──立花藍子さん曰く、黒髪ロングの女子──皆川玲奈さんは男との距離の詰め方がいつもああだから、身体だけの関係になる事が多い…と言うより、そうにしかならないらしい。

だから、皆川さんが自分から事情を話せるくらいまででいいから仲良くしてやってほしいとの事だった。

もちろん、その話が嘘だって可能性もあったけど、夏鈴が力強く頷いたのを見て、了承してLimeも交換した。

「あれが分かってて呼んだの?」

解散となってすぐに俺と夏鈴は二人きりとなり、俺は夏鈴にそう聞いていた。

「まあ、光希ならなんとかしてくれるだろうなーとは思ってたよ」

したり顔でそう言う夏鈴に、俺は何も言い返せずにたださすがだなと思わされる。

いや…幼馴染だからとは言え、さすがに俺はここまで夏鈴を理解してるとは思えない。

「まあ、ちゃんといい子だから、仲良くしてあげてね?ちゃんと普通を教えてあげるんだよ?」

「それって、夏鈴じゃできない事なの?」

「うん。男子にだけだから、できなかった」

「最初からそう言ってくれれば、最初からそうしたのに……」

「ごめんごめん!」

夏鈴はそう言って俺の背中を叩く。

まあ、悪い人じゃないなら全然構わないけど、もうちょっと他にやり方があるだろうとは思う。

実際、多分かなり傷付けただろうし、皆川さんがいい人なら本当に申し訳なくなる。

「光希にも春が来るかもね!」

「青ければいいけどな…」

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