第7話

 翌日は眩いほどの晴天だった。

 すっかり調子の良くなった有李華は、午後庭へ出てアフタヌーンティーを楽しんだ。ティラミスがおいしい。今日の紅茶はセイロンだ。

 そうだ、ここの別荘地に来て仲良くなった人を呼んでパーティを開こうか。蒼夜は来られるだろうか。なんとなく彼は来られない気がした。


***


 今日は霧の深い日だった。

 真っ白のフレアワンピースに身を包んで、朝食の席へと向かう。

 今日の朝食はスフレパンケーキ。ふわふわの食感に舌鼓をうつ。

「今日は夕食は要らないわ」

「まだお体の調子が優れませんか?」

「いえ、そういう訳ではないのだけれど」

 蒼夜と会うと何故か夕食が食べられなくなるのだ。それをどう伝えればいいだろう。

「――お会いする日は、そのお友達の家で、夕食をいただくことにしているの」

 ――有李華は、嘘をついた。


 今日は恋愛小説を湖畔に持っていった。蒼夜はいつものように四阿に座っていた。

 ふと顔を上げた蒼夜が儚げに笑った。それがどこか切なさを帯びていることに有李華は気づいた。

「やあ、有李華さん。今日はなんの本を持ってきたんだい?」

「恋愛小説よ。半分ノンフィクションなんですって」

「へえ、面白いね」

「作者の狂気が透けて見えるわ」

 すると、蒼夜がすっと右手を持ち上げた。

「手を合わせてみて」

 どきん、と心臓が跳ねた。

 左手を持ち上げて、そっと手首から合わせていく。

 一回りは大きいその手に、ゆびさきが、触れた。

 つめたい。

 背筋がぞくぞくっと震えた。このまま触れていたら熱が彼に持っていかれてしまいそうだった。

 けれどそれ以上に。

 ああ、もうどうしようもない。有李華はこの人に触れられて嬉しいと感じていた。

 たとえ熱が奪われていっているのだとしてもこの胸の奥の熱だけは奪われることはないだろうとも感じた。

「十秒間、手を合わせていられたら、相性がいいらしいよ」

「そうなの? あと何秒?」

「もう経った」

 蒼夜はすっと手を離そうとしたので、指を絡めた。

「ねえ、蒼夜さん」

「どうしたの」

 その声があまりにも優しかったから、有李華は気づかないふりができなくなってしまった。

「すこし、貴方の体温が上がった気がするわ」

「そうかな」

 有李華は蒼夜に絡めた指をすうっと離した。

 蒼夜は安心したような顔をした。

「ひとつ推理したのだけれど」

「なにかな」

「あなたは人の体温を持っていくことができるのね?」

「……やさしい言い方をするね。正しくは、奪ってしまう、かな」

「あなたはだあれ?」

 その質問には、蒼夜は笑って答えなかった。

「さあ、本を読もう」

「ええ……」

 くらりと一瞬強めに目眩があったが、蒼夜が支えてくれた。蒼夜は、出会ったばかりの頃のような儚さがなくなっているような気がした。

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