第5話
翌日目覚めると、カーテン越しでもわかるきれいな晴天が広がっていた。ああ、今日は蒼夜に会えないな、と思った。ベッドで目覚めて最初に思うことが蒼夜のことだったのが我ながらいじらしく思えて忘れようと努力した。
朝食のフレンチトーストとブラックコーヒーを食しながら、蒼夜は何を食べているのだろうと考えた。あんなに細いのだから、もしかすると拒食症なのかもしれない。この別荘地には静養に来ているのかも。
そう思いながら、有李華はそれが空々しい空想であるという感覚が抜けなかった。蒼夜からはいつも空虚な香りが漂ってきていたからだ。
人間味がない、のだ。
深い霧の日にだけ見える幻なのではないかと思った。
霧をスクリーンにして映る幻。
だとしたら有李華は幻に惹かれてしまっている。
これまで読んできた本や映画たちはそれが死への誘いだと告げている。本当は蒼夜にはもう会いに行かないほうがいいのだろう。
でも、次に会う約束をしてしまったから。
約束は守らなくてはいけないから。
約束を破られたら悲しいから。
フレンチトーストにメープルシロップを追加でかけながら、有李華はそう思った。
この先も会うかどうか決めるのは、それからでも遅くはないと、思ってしまった。
今日は一日家でゆっくりしようと決めて、メイドに庭で読書をする旨を伝えた。
***
晴天の今日、アフタヌーンティーが運ばれてきたタイミングで、執事が初めて見る男性を連れてきた。
「お嬢様、こちらは庭師として雇った由利翔星さんです」
「ああ、庭師をずっと探していたものね。よろしくお願いいたします、由利さん」
「そんなご丁寧にどうも……よろしくお願いします」
***
それから数日の間晴天が続いた。蒼夜に会いたかったが、この天気では無理だろう。
今日の有李華はアフタヌーンティーを楽しんでいた。アールグレイのアイスティーを飲みながら、ページをめくる。今日は好きな音楽アーティストの出した歌詞詩集を読んでいた。
マカロンを口に運ぶ。
これは……コーヒー味かな。
しばらく読書に集中していたら、気がつくともう空は暗くて霧が深くなっていた。
「……この様子なら、いるかしら」
でもこれから行っても夕食の時間に間に合わないから、今日は行くのをやめておこう。
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