第3話

 翌日は燦々と日が照る一日だった。メイドの用意した洋服を身につける。今日のワンピースは濃紺だった。

「お嬢様はお肌のお色がお白くていらっしゃるので、濃い色が合うのです」

「いつもありがとう」

 朝食の卵焼きと鮭とご飯と味噌汁をそれぞれ適量食してから、有李華は部屋から小説を一冊持ち出した。

「出かけてくるわ。サンドイッチを作ってくれる?」

「かしこまりました、少々お待ち下さい」

 今日はあの四阿で青年――蒼夜と過ごすつもりだった。

 少し待つと、メイドがサンドイッチをバスケットに入れて持ってきてくれた。

「ご友人と食べるのですか?」

「ええ、そのつもり」

「そう思いましたので、少し多めに作っておきました。もしご不要でしたらお残しくださいませ」

「まあ、とても気が利くわね。ありがとう」

 行ってきます、と声を掛けて日傘を差す。今日渡されたのは和風の日傘だった。


 昨日と同じ道を辿って四阿へ行ったが、そこには青年は居なかった。

「あら……」

 まだ来ていないのか、今日は来ないのか。

 どちらにせよ少し落ち込んだ。けれど折角来たのだから、本は読んでから帰ろうと思った。

 バスケットを置いて、ハンカチを敷いて、座って背筋を伸ばす。有李華は読書を始めた。

 昼になっても彼は来なかったので、一人でサンドイッチを食べた。一人で食べるには多かったのでおそらくデザート用であろうフルーツサンドは残した。

 本も読み終わってしまった。久々に読んだが相変わらずロジックがきれいな小説だった。自分が好むミステリ小説だったので、読むのは二度目であった。通っていた女学校ではタネが分かっているミステリを読み返すなんて変わっていると言われていたけれど、蒼夜も同じ本を何度も何度も読み返すと言っていたし、有李華はやっぱり特に変わってはいないんだわ、と思った。それに、彼女たちは雑誌ばかりではなく本をもっと読めばいいのにとも思った。

 夕方になったら彼が訪れるかもしれない、と思った有李華は、一度伸びをしてから、もう一度同じ本を読み返し始めた。

 午後二時頃になって、本を先程よりも早いスピードで読み終わってしまった有李華は、ふうと息をついて立ち上がった。流石に同じ本を三周するのは飽きてしまう。今日は蒼夜は来ないのだと思って、バスケットを片付けて別荘へと帰ることにした。期待が空振りに終わることには慣れていたので、特にショックは受けなかった。


「ごめんなさい、残してしまったわ。夕食のときに食べるから、取っておいてくださる?」

「承知いたしました。ご友人は来られなかったのですか?」

「ええ。もともと、約束をしていたわけではなかったから」

 約束をしなければ人と人とは会えないのだ、ということをすっかり忘れていた有李華のミスだ。特段落ち込むことではない。約束をしていてなお会えないこともあるのだから。ふと幼少期の誕生日のことを思い出したが、目を瞑って頭を振って脳裏から追い出した。

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