第5話 若い頃覚えたもの…
本物を見ないでまず書いてみます。
漢字変換に助けられるでしょうが、まだ覚えています。
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なすはこべは萌えず
若草もしくによしなし
しろがねのふすまのおかべ
日に溶けて淡雪ながる
島崎藤村の「千曲川旅情の詩」ですね。
先年、はじめて懐古園にいきまして、
「あ…本当にあるんだ、歌碑が…」
と思いました。
小諸城跡にあるのが懐古園です。
ふるさとは遠きにありて思うもの
そして悲しく歌うもの
よしやうらぶれて
異土の乞食になるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都の夕暮れに
ふるさと思ひ涙ぐむ
そのこころもて
とおき都にかえらばや
とおき都にかえらばや
室生犀星の有名な詩ですね。
冒頭があまりに有名ですのでみなさんご存知です。
「小景異情」といいます。
コピーして本物を載せます。
やっぱりところどころ違っています。
旧かなづかいとか「てにおは」とか。
*****
小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁蔞は萌えず
若草も藉くによしなし
しろがねの衾の岡邊
日に溶けて淡雪流る
*****
ふるさとは遠きにありて思ふもの
そして悲しくうたふもの
よしや
うらぶれて異土の乞食(かたゐ)となるとても
帰るところにあるまじや
ひとり都のゆふぐれに
ふるさとおもひ涙ぐむ
そのこころもて
遠きみやこにかへらばや
遠きみやこにかへらばや
*****
若い頃に覚えたものは忘れないのですね。
母校の現代文の講師にF先生がいました。
NHKのラジオだかテレビだかの講師もされていたという方で、なぜかあまり賢くない僕たちの学校の教師をしていました。
すでにかなり前にお亡くなりになられています。
「中間テスト…この『千曲川旅情の詩』を出すからな…」
「穴をあけておくから…」
軽く暗記しておけばいいじゃん…
と思いましたが、
「選択肢なんてないぞ…」
と最後に付け加えられました。
本気で全部暗記しなくちゃ…。
「小景異情」もそうでした。
本屋で島崎藤村や室生犀星の詩集を買って覚えましたね。
こんな詩も覚えました。
これも記憶から書きます。
まだ挙げそめし前髪の
りんごのもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思いけり
あと三連ありますが省略します。
書きませんが、これはちょっと違っていました。
「初恋」というこちらも藤村の詩です。
本物をご鑑賞ください。
私は好きです、がらにもなくキュンってします。
*****
まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり
やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅の秋の実に
人こひ初めしはじめなり
わがこゝろなきためいきの
その髪の毛にかゝるとき
たのしき恋の盃を
君が情に酌みしかな
林檎畑の樹の下に
おのづからなる細道は
誰が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそこひしけれ
*****
定期試験のために覚えましたが、もう半世紀近くたっているのになんとか…
先生、ありがとうございました。
それにおそらく
こもろなる
こじょうのほとり
とか
まだあげそめし
まえがみの
なんてこれを韻と呼ぶのかどうか知識がないですが、リズムが良いので覚えやすいのでしょう。
天才、文豪が書いたものですから、読みやすく覚えやすいのかもしれません。
他の生徒にはあまり好かれていませんでしたが、僕は意外と好きでした。
文章の面白さとか深さ、リズムをよく聞くとお話していた気がします。
調べると先生、三島由紀夫とも対談されていました。
もっとお話しを聞いておけばよかったですが、当時の賢くない高校生がそこまで考えるのはちょっと無理でしたかね。
本が好きになったのは、この先生のおかげもありました。
夏休みの宿題に井上ひさし氏の
「モッキンポット師の後始末」の感想文
を出されました。
面白かったです。
読書の面白さを堪能しました。
三人の貧乏大学生のお話ですが、大変面白かったです。
いろいろとしでかしてくれる学生達を非常に大きな心で面倒をみるモッキンポット師。
「モッキンポット師ふたたび」という続編もあるのですが、すぐに買って読みました。
僕も大学生になったらこんな面白いことができるのか…
いやここまでは無理だろう…
なんて思っていました。
でも負けず劣らず面白いことをしたつもりですけれど。
拙作「ヨットの上で…」にあるとおりです。
F先生は僕なんか覚えていないでしょう。
ですがまじめに暗記しましたので、平均30点の試験で50点くらいをとることができました。
残念…もっともっとお話しを聞いておくべきでした。
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