私は右手で身体をまさぐった。左手はもう感覚が無くなっていた。パーカーの胸ポケットに何か硬い物と柔らかい物があった。ライターと煙草だ。何も持たずに散歩をする私の唯一の持ち物だ。


 法師はもう私のすぐ横に来ていた。荒い息づかいが聞こえた。


 グサッ・・


 私の頭のすぐ上に鎌が振り下ろされた。私の身体が恐怖で縮み上がる。法師の声がした。


 「ここか?」


 グサッ・・


 今度は私の左耳のすぐ横に鎌が振り下ろされた。次は胸だ。


 私は右手で小石を拾って横に投げた。1mほど横で小石が枯れ木に当たる鈍い音がした。暗闇の中で法師の身体がそちらを向くのが分かった。


 「見つけたぞ」


 法師が枯れ木の方に足を一歩踏み出した。何かが私の顔をこすった。法師が着ているボロボロの袈裟けさすそだ。


 私は咄嗟とっさに右手でライターをつかんだ。そして、法師の袈裟に火をつけた。


 乾燥しきった法師の袈裟の上を火がった。まるで蛍が這うようだ。次の瞬間、袈裟全体が大きく燃え上がった。


 炎の中に法師が四肢を曲げて苦しんでいる姿が、黒い陰となって浮き上がった。


 私はそのまま気を失った。


 

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