私は立ち上がると、左肩に刺さった鎌を引き抜いた。再び、激痛が私を襲った。肩から血が噴き出した。

 

 法師は枝が刺さった右眼を手で押さえて、枯れ葉の上をのたうち回っている。私は引き抜いた鎌を法師に向かって投げつけた。だが、激痛で力が入らない。鎌は弱々しく法師の手前に落下した。

 

 逃げなければ・・


 私は左肩を右手で抑えながら、法師に背を向けて走り出した。血が肩から流れて私のパーカーを濡らした。それでも血は止まらず、パーカーのすそからポタポタと滴り落ちた。私が走った跡には枯れ葉の上に、赤い点が満月に光っていくつも連なっていた。


 「待てぇ」


 後ろから法師の声が聞こえた。振り返ると、法師が追ってきている。右眼には枯れ枝が刺さったままだ。左眼で私の血の跡を追っているのだ。眼に枝が刺さっているのに、法師の足は恐ろしく速い。どんどん私に近づいてくる。


 だめだ。追いつかれる・・


 そのとき、満月が雲に隠れた。周囲から光が消えた。枯れ葉の上の血の跡が見えなくなった。


 足が疲れていた。これ以上走ることはできなかった。私は咄嗟とっさに枯れ葉の上に身を伏せた。息をひそめた。隠れて法師をやり過ごそうとしたのだ。


 暗闇の中で枯れ葉を踏む音が聞こえた。法師が一歩ずつこちらに歩いてくる。闇の奥で法師の声が響いた。


 「隠れても無駄じゃ。ここはわしの林じゃ。この近くにおるのが手に取るように分かるわ・・ここか?」


 グサッと地面に何かが突き刺さる音がした。さっきの鎌で地面を突き刺しているのだ。私は鎌を法師に投げつけたことを後悔した。だが、もう遅い。


 グサッ・・


 グサッ・・


 グサッ・・


 鎌で地面を突きさす音がだんだんとこちらに近づいてくる。


 な、何か武器はないか?

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