そこは直径3mほどの円形の空地だった。そこだけ地面がむき出しになっていて、周囲を木々が取り囲んでいた。中央には小さな焚き火がある。焚き火の前には丸太が転がっていて、誰かが腰かけていた。こちらに背中を見せているので、背中が焚き火の陰になっていた。


 私は声を掛けた。


 「もしもし」


 焚き火の前の人物がゆっくりと振り返った。粗末な着物を着た老婆だ。老婆の顔が焚き火の陰になっていて、顔つきまでは分からない。


 「すみません。ここから出る道を教えていただきたいのですが」


 陰になった老婆の口が開いた。不気味な声が聞こえた。


 「出られん」


 「えっ」


 「ここは大馬鹿モンの法師の土地じゃ。出たければ法師を倒すことじゃ」


 「ホウシ?」


 「僧侶のことじゃ。ここ武蔵野には大昔から大馬鹿モンの法師と呼ばれる化け物がおっての。不思議な力で林を支配しておる。法師を倒さねば、お前はここで野垂れ死ぬだけじゃ」


 そう言うと老婆が横の木々をゆびして、ケラケラと不気味な声で笑った。老婆が指差した方向を見ると・・木々の間に無数の白骨が転がっていた。


 「あ、あれは・・」


 「ここから出られんかった者のなれの果てじゃ。じゃが、ここから出た者は一人もおらんでの・・」


 「・・・」


 私は老婆に視線を戻した。しかし、そこには誰もいなかった。焚き火もない。老婆が腰かけていた丸太もなかった。直径3mほどのむき出しの円形の地面が寒々と私の眼に映るだけだった。


 恐怖が私を押し包んだ。


 「わー」


 私は悲鳴を上げながら、林の中を無茶苦茶に走り出した。

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