大馬鹿モンの法師が跳んだ
永嶋良一
1
どこまで歩いても雑木林が続いていた。
おかしい。もう何時間も歩いている・・
私は井の頭公園をいつものように散歩していた・・しかし、いつの間にか出口のない雑木林に迷い込んでいた。
私は売れない三文作家だ。東京の武蔵野市に住んでいる。井の頭公園の近くだ。私は執筆の合間に井の頭公園を散歩するのを日課にしている。公園を歩いて喫煙場所で一服して帰るのだ。今日もいつものように何も持たず、ぶらりと散歩に出たのだが・・
井の頭公園にこんな広い雑木林があったのだろうか? 私は携帯電話を家に置いて出たのを後悔した。これでは家族に連絡も取れない。
それにしても・・さっきから全く人に会わないのだ。どうもおかしい?
雑木林の中は枯れ木と赤錆び色や黄褐色の枯れ葉で埋まっていた。私は木々の間を枯れ葉を踏みながら歩いた。歩くたびにガサガサと乾燥した枯れ葉が砕ける音がした。それがこの雑木林の中で聞こえる唯一の音だった。
私は頭上を見上げた。もうすっかり葉を落とした木々の梢の間から空が見えた。さっきまで晩秋の澄んだ青空が広がっていたのに、くすんだ青紫色に変わっている。
もう夕方だ。
突然、林の中を冷たく乾いた風が流れた。枯れ葉が風に舞った。冷気が私の身体を押し包んできた。コートを着てくればよかった・・私はパーカーに薄いセーターを羽織っただけだ。ブルッと身体が震えた。
いけない。何とかしないとこのまま夜になってしまう・・誰かいないのか?
私は足早になった。木々の間を駆けるように歩いた。何度も枯れ木に肩がぶつかった。その度に羽織っている薄いセーターが擦り切れた。もうセーターはボロボロだ。
しばらく歩くと、前方にオレンジ色の灯りが見えてきた。眼を凝らすと、木々の間に炎が揺らいでいる。雑木林の中で誰かが焚き火をしているようだ。
しめた。助かった。出口を教えてもらおう・・
私は急いでその炎の方に向かった。
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