いじり上手な彼女の商店街クイズ

松島司郎

いじり上手な彼女の商店街クイズ

 冬の真っ赤な夕日が沈み始めた平日の夕方。とある少し寂れた商店街の一角にある、とあるイベントの福引き会場。そこへ並ぶ人々の最後尾に、1人の男子高校生がいた。名は石見いわみコウヘイという。


「腹減った・・・」


コウヘイは右手で腹をさすりながら、そう呟いた。なぜなら、彼は今日昼ご飯を食べていないのである。そんなコンディションである為、さっさと福引きをしてさっさと家に帰りたいところであるが、残念ながら今彼の並んでいる行列は彼を除いて皆高齢者。皆揃って福引きの作業にもたつき、中々前に進まない。


 行列があまりに前に進まないので、コウヘイが心の内でもたつく老人を急かし始めたその時、後ろから右肩を叩かれ、反射的に後ろを振り返る。そこには綺麗な黒髪ロングヘアの、彼と同じ学校の制服を着た女子高校生が立っていた。


「マキ、委員会終わったのか」


コウヘイが少し驚いた口調で言った。彼が言った通り、彼女の名は小泉マキという。因みに、石見の彼女で、交際開始から1年ほど経つ。


「また福引き?ほんと好きだよねー。昼ご飯食べてなかったのに、よくやるよね」


「豪華景品が当たるかもしれないんだぞ?やらずにいられないだろ」


「私は別にそうでもないけどね」


「夢のない奴だ」


するとマキは少しムッとして言った。


「夢くらいあるよ」


「将来の?」


「将来の」


「へぇ、教えてよ」


「コウヘイと死ぬまで一緒にいること」


「え」


コウヘイの顔がボッと赤く染まる。マキはそれを見て声を上げて笑った。


「あははっ!何照れてんの!だっさいなぁ!」


「うるせぇ、ほっとけ」


「本当、すぐ顔に出るよね」


「いい加減直したいよ・・・」


「別にいいじゃん?分かりやすいし。あ、前動いたよ。もうすぐだね」


「あぁ、ほんとだ」


2人は少しだけ前に進んだ。


「突然ですが、クイズの時間です」


「えー、なんか気分じゃねーな」


コウヘイは嫌そうな表情をした。


「正解したらそこにある惣菜屋さんのメンチカツを1個奢ります」


「何モタモタしてんだ、さっさと問題出せよ」


コウヘイの顔は一転して真剣そのものになった。


「全1問。問題、今私が欲しい福引きの景品は何でしょう?」


「はぁ?」


「チクタク、チクタク・・・」


コウヘイは覗き込むようにして景品を確認する。

1等 温泉旅行ペアチケット

2等 掃除機

3等 自転車

4等 使い捨てカメラ

5等 ミニカップ麺


「じゃあ、1等の温泉旅行ペアチケット」


「違いまーす。このエッチ」


「エッチ!?」


「風呂上がりの私のホカホカな体を見たいという欲が透けて見える」


「だ、誰もそんな事思ってねーよ!」


「それはそれで失礼だなー」


「まぁ、見たいか見たくないかで言ったら見たいけどさ。今は関係ない!えーと、温泉じゃなかったら、自転車か?」


「違いまーす」


「掃除機?」


「違いまーす」


「カメラ?」


「違いまーす。あ、順番回ってきたよ」


マキがそう言って指さした先には、折り畳み式机の上に置かれた腕を入れる事ができる赤い箱があった。


「もしかして、タイムアップ?」


「タイムアップです」


「あぁ、くそう!久々に奢ってもらおうと思ったのに・・・」


コウヘイは落ち込みながら、福引き会場のスタッフに、福引きの参加券を10枚渡した。


「はい、2回分ですね。どうぞー」


スタッフがやる気の少ない声で言った。


「狙うは3等以上、いざ!」


コウヘイはそう言うと、赤い箱から四つ折りにされた紙を2枚取り出しスタッフに渡した。


「両方5等賞ですね。ではミニカップ麺2つという事で。ありがとござましたー」


スタッフが、紙を広げて見てそう言うと、小さいカップ麺を2つコウヘイに手渡した。コウヘイは、両手でそのカップ麺を持ちながらトボトボと福引き会場を後にした。


「あぁ、ハズレだぁ・・・」


「当たりだよ」


「へ?」


コウヘイは驚きまじりにマキの方を向くと、マキはご機嫌な表情であった。


「ん、いやだって、5等だよ?1番下だよ?」


「私が欲しかった景品、そのミニカップ麺だったんだ」


コウヘイは、あぁと口からこぼし、得心のいったような口調で続けた。


「なるほどね・・・して、何故にミニカップ麺?」


「私ん家、寄ってかない?2つあるんだから、一緒に食べようよ」


「・・・え、まさかそれが言いたかったが為に?」


「そ」


「別に、普通に家寄っていきなよって言えばいいじゃないか」


「だって、恥ずかしいじゃん」


マキは少し照れたようにそう言うと、コウヘイは嫌味の如く笑った。


「なに照れてんの!だっさいなぁ!」


「うっさいなぁ」


「それに、そういうのって普通手作り料理でもてなしてくれるんじゃねーのか?」


「もっと上手くなったらね」


「ああ、楽しみにしてるよ」


コウヘイがそう言うと、マキも笑った。痛く感じるくらい冷たい風が吹く。


「うぅー、寒い!」


マキはそう言うと、コウヘイの腕に抱きついた。


「歩きづらい」


「文句を言わない」


「早く行って、カップ麺食べてあったまりたいんだよ」


「それは同感」


こうして、2人は他愛ない会話をしながら、とある商店街を出ていった。

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