第7話 嫌な噂

「図書委員の陰キャが生徒指導の先生とシているらしい」


そんな噂を最近聞く。

その図書委員が誰なのかはわからないが、生徒指導室に呼び出される生徒がいつもメガネをかけていることと図書室で見かけることが多いことからそう断定されたらしい。

俺は読書が好きでよく図書室に行くので後期は図書委員に立候補した。

図書委員には眼鏡をかけている子も多い。だが当然前期の図書委員の話など俺には縁のない話であった。

まず生徒指導室に呼ばれてるからと言ってシているとは限らないし、失礼な話である。

「勇人ーー、今日一緒に帰らない?」

ぼーっと考え事をしていると、美咲が声をかけてきた。

「あー、今日図書委員あるからきつい」

「わかったー」

そう、今日は図書委員としての初仕事である。




「それじゃあ、図書委員の仕事はこんな感じ!」

司書さんの声が図書室に響く。俺は放課後、図書委員の説明を受けていた。

「えーっと、じゃあさっそく君は藤宮萌音ちゃんと一緒に仕事してねー」

その子は眼鏡をかけて地味な感じだったが、よく見ると顔は整っていた。

例えるとすればウマ娘のゼンノロブロイといったところだろうか。

「よ、よろしくお願いします」

彼女は静かにそう言うと俺も続けて挨拶した。

静かだしやっぱり図書室は落ち着くなー。

今日から月水金の放課後の担当だ。今日は月曜日のため俺たちである。

この学校は本が多い。そのためしっかりとした整理整頓が必要である。

俺がやっと一棚終えた頃に藤宮さんは五棚くらい終えていた。

「は、早ぇ。」

俺も負けじと整頓に取り掛かった。

「あのー」

声をかけてきたのは一般的な女子。本を手に持っている。

「この本借りたいんですけど」

この瞬間、緊張で貸し出しの工程を全部忘れてしまった。

「あ、えっと…」

その場で立ち尽くす俺を女子生徒が不思議な目で見ている。

(ま、まずい。)

「何かございますでしょうか?」

そう声をかけたのは藤宮さんだった。

「あ、この本をお借りしたくて」

「そうでしたか。それではこちらへ」

そう言って俊敏に貸出所向かっていった。流石ベテランである。

「俺も見習わなきゃだな」

そう1人呟くと、俺は貸出所の裏にある書庫の掃除へと向かった。

貸出所の裏はこの図書室に入りきらない本や古い本を保管する書庫となっている。基本誰も入ることはないので多少埃っぽいが、この古い雰囲気もなかなか好きである。しばらく浸っていると、

「さっきは危なかったね」

「うわっ!」

柔らかく微笑んだ藤宮さんが上目遣いで言ってきた。眼鏡はつけていない、やはり可愛らしい。

「あ、うん。助けてくれてありがとう」

「ううん!気にしないで!最初は慣れないと思うから何かあったら頼ってね!」

や、優しい。俺はもっとこう、おとなしくて控えめな感じかと思っていたが、普通に可愛くて元気な子なのかもしれない。

「ここ、気に入った?」

「あ、うん。なんか雰囲気が好きでさ」

「うんうんわかるよぉ。落ち着くよねぇ」

藤宮さんは顔を上下にしながら言った。

なんだろう、すごく話しやすい。

「藤宮さんさっきとはだいぶ雰囲気変わってない?メガネもかけてないし…。」

そういうと藤宮さんは

「私、眼鏡かけてないと落ち着かなくなっちゃうの。」

依存症というやつだろうか。

「でも、この図書室は落ち着く場所だから外しても大丈夫なんだぁ。」

「そうだったんだね。」

「私も付けたくて付けてるわけじゃないんだよ!?なんか地味だし!でも付けてないとどうしても落ち着かないから仕方なくて。」

なんだか可哀想であった。俺はこの子のために何かしてやれないのだろうか。


ゴーンゴーン


「うわっ!」

「ギャッ!」

古びた時計が鳴り出した。5時の合図らしい。

「へぇー、随分古そうだけどまだ動いてるんだな。」

彼女の方に目をやると、随分と焦った様子で眼鏡を探していた。呼吸も荒くなっている。

「あの、大丈夫?」

俺は声をかけるが眼鏡探しに夢中でまるで聞こえていないようだった。

山積みになった本に置かれた眼鏡に気づき俺はすぐに彼女に渡してあげる。

すると彼女は奪い取るように手に取って、息を大きく吐くと

「ご、ごめんなさい…いきなりこんな…迷惑かけてしまって。」

「いや、大丈夫だよ。」

さっきの人格に戻ってしまったらしい。

「今日はもう帰ろうか。図書室も閉めちゃおう。」

「は、はい…」

「俺も一緒に帰るから家送るよ。」

「え?大丈夫なんですか。」

「ああ、気にしないで。」

俺にできることはそれくらいかなと思った。せめて彼女を安心させて家へ帰らせたかった。

あともう一つやるべきことがある…


図書室の鍵を閉め、俺たちは駅へ向かった。

しばらくは沈黙が続いていて、どこか気まずい雰囲気が醸し出されていた。

「あの…」

切り出して来たのは藤宮さんだった。

「私、実は君の名前聞いたことなくて、」

「あぁ、そういえばそうだったね!鷹橋勇人だよ。鳥の鷹に普通の橋。すこし珍しいかも知れないけどね。」

「そ、そうだったんですね…」

再び沈黙が流れる。

ダメだ、このままじゃ。目的が達成できない。もう目の前に最寄り駅が見えている。

俺は勇気を出して声を上げた。

「藤宮さん!」

「は、はい!!」

びっくりした様子だったが俺は気にせず歩み寄る。そして彼女の肩を掴むと、

「君、俺に隠してることない?最近出てる噂って君のことなんじゃないの?」

「はへ?」

「だからさっき5時の合図であんなに怖がってたんじゃないの?」

彼女は何も答えなかった。

「助けてほしかったら助けてって言っていいんだよ。俺には弱音とか全部吐いていいんだからね?」

そういうと彼女は少し涙ぐむ。

俺は察していた。地味と言われつつ整った容姿、狙われてもおかしくない。少し引っ込み思案な性格と権利を利用しようとすればできてしまう。何より5時のタイマーである。5時ごろに校舎に残る人は図書委員と別棟の吹奏楽部ぐらいだ。その時間帯に狙えばバレることもそこまでないであろう。

「私、ずっともう誰にも助けられずにこのまま過ごさなきゃいけないなかと思ってた。助けてくれる人がいるなんて思ってもいなかった。」

そうして溢れる涙を拭くと

「助けて!勇人君!!」

そう訴えて来た。

俺は彼女の頭にポンっと手を置いて、

「大丈夫、俺に任せて。」

そう言ってニィっと笑って見せた。










どうも、お久しぶりです。作者のゆるるです。

まず、このお話を投稿するのが遅くなってしまい申し訳ございません。

先週は部活が忙しくなんともこっちに手をつけられる状況ではございませんでした。

今週の月曜日に高熱を出しまして、市販の抗原検査を累計3回ほどやったのですが全て陰性だったので、インフルエンザかなーと思いながら病院行ったらPCRで陽性出てバリバリコロナでした⭐️

皆さんも体調には気をつけてください。では、家にいる間は少し進めたいと思います。今後もよろしくお願いいたします。



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