幕間 夏休みは期待Lv.999
蝉が鳴いている。日に日に増してくる暑さに、これが「夏」だと教えられている。
さて、今日は一学期の終業式。“一応”、明日から夏休みだ。というのも、七月中は「夏課外」と言う名の地獄があり、午前中だけではあるが学校に行かなければいけない。休みとはよく言ったものだ。形式だけ休みにするなんてもはや詐欺行為だろう……ごめん、言い過ぎた。
「ただいまより、第一学期終業式を行います。一同、礼」
まず行われるのは、“校長先生と教頭先生”のお話だ。それぞれが順番に登壇するのではなく、“二人で一緒に”登壇する。
それがどういうことなのかは……これから始まる、その“お話”というものを見てもらったほうが早い。
パッ、と体育館の照明が落ち、イントロからバチバチにキマったかっこいい洋楽が流れ始める。
――コルテックス!
「どうもー! コルテックスですー。よろしくお願いしますー」
がなりの後、スーツ姿の二人のハゲ……おっさんが、元気の良い挨拶とともに照明がついたステージに飛び出してきた。
彼らこそが、
「教頭先生、明日から夏休みですよ」
「そうですねー。早いですねー」
「いやー、夏休みといったらやっぱり……クリスマスでしょ」
「お前それ冬休みやないかい!」
大路良高校では、なぜかこの二人による漫才をことある行事ごとに見せられる。正直、クオリティーは微妙だ……。でも、そのおかげで蒸し暑い体育館が涼しく感じられる。地球温暖化抑制のためにも、二人にはぜひ世界へ羽ばたいてもらいたい。
「……さっきから、冬の話ばっかりしてない?」
「新婚旅行でオーストラリアに行ったから……時差ボケで……」
「いつの話してんだよ。ボケすぎだろ! もういいよ!」
「どうも、ありがとうございましたー」
約千人いるとは思えないくらいのまばらな拍手に見送られ、再びステージは暗転した。
その後にも表彰やら諸連絡やら校歌斉唱やら色々やって、ようやくクソ暑い中での終業式が終わった。クーラーの効いた教室に早く帰りたい……と思うが、みんなは動かない。
どうしたんだろう、暑さにやられちゃったんだろうか……と心配しているところに、“壮行会”を行うというアナウンスが入った。
……忘れてた。長期休み前名物・ステージにずらーっと並んだ部活動の部長のみなさんがこれから始まる夏の各種大会に向けて意気込みを語る会だ。私は副部長なので、特に何もやることはない。座ったまま、ぞろぞろと該当の生徒たちがステージに集まるのを眺めている。
その中にはもちろん、
「……続いて、やきゅ……オカルト研究会!」
五番目に呼ばれた彩々が返事をして、一歩前に出て一礼する。
「私たち、オカルト研究会は野球部の活動において甲子園地方大会に出場し、準決勝に進出しました。優勝目指して全力で闘いますので、引き続き応援よろしくお願いします!」
いつの間にそんなところまで進んでいたんだろう……。ということを思う暇もなくオカ研のターンは終わり、入れ替わりでサッカー部が前に出た。後は他の部活動のを聞いているだけ。滞りなく会は進んでいき、全体で十分ほどで終わった。ようやく教室に戻れる。
暑いので手短に、という担任の粋な計らいで帰りのホームルームもすぐに済んだ。いつものように、彩々とふーちゃんと駐輪場まで歩いていく。時刻は正午をまわったところ。この後も、さらに気温が上がりそうだ……。
「今度、みんなで海行かない?」
「いいね! 行こう!」
ちょうど生徒玄関に到着した時、彩々がそんな話を持ちかけてきた。夏休みはせっかくだから三人で遊びたいと思っていたところだったので、断る理由なんてなかった。
明日からの
自転車に乗って走り出すと、蒸し暑い大気も涼しい風に変わる。太陽を反射してきらきらと光る川面を横目に捉えながら、最近覚えたばかりの夏の定番ソングを頭の中で流してみる。
これから過ごす初めての夏は、きっと充実したものになるだろう。そんな期待で、胸がいっぱいになる。
リズミちゃんは居候Lv.999 ねむねりす @nemuris
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