第12話 エライ人

朝、アスティが準備した荷馬車でカティへ向かう。

「なぁ、師匠。」俺は肩寄合いながら言った。

「どうした、相棒」とアスティも言った。

「狭いですね」とへレスも言う。


「偉いんでしょ!?もう少しおっきな馬車とか

 準備してほしかったなぁぁ!!」と俺は言う。

「というか、荷物扱いじゃないですか!

 プライベート荷馬車とか準備出来なかったんですか!」


「お前は間違っている。俺は一から出直そうと

 しているんだ。金に物を言わすなんてできるか」と

何かかっこいい事を言うアスティ。

「一から出直すって何か失敗でもしたんですか?」

そう聞くと

「なにも?順風満帆過ぎて怖かったよ」と笑う。

「な、なんで大統領を辞めちゃったんですか」と

もう、ため息をつきながら聞いてみた。


「いいか?シン。異世界は冒険だ。

 驚き!そして発見!それこそじゃねえか」と

ヤダヤダと仕草をしながら言いやがった。


そう言う雑談をしながら俺達は揺られていく。

しかし。流石に異世界から来て一国のてっぺんに

立った人だ。昨日のスモールサングリア100匹の

討伐を見て、俺は震えた。

おぞましく、この人は強い。向こうで何かを

やっていた人だろうか。


しかし、俺と同類ではないと感じた。

(詮索はよそう。)と俺は下を向き微笑む。が!

「金貯めて!専用荷馬車を買おう!」と叫ぶ!

「おおお!」とへレスも叫ぶ!

「おおお!」とアスティも叫ぶ!


そうこうしているうちに道中の半分くらい過ぎた。

「魚が食いたい」とアスティ。

「師匠?贅沢は言わないでください。」と諭す俺。

「釣ればいいじゃない。というか、泳いで捕まえる?」

とへレスは言うと、川を指さす。


「おお!俺、泳いで捕まえる!」と提案。

何故ならば、泳ぎたいからだ!狭い荷台なので

汗をかいていたから・・・だ!


「よし!魚取ってくる!」と俺は捕まえられないと

解っていながら、バカのふりをして川に飛び込む。

もちろん、装備は脱いで。


「気を付けろよ!」とアスティ。

「大丈夫です!それほど冷たくはないです!」

と俺は気持ちよく泳ぎながら返事をした。


「いや!そうじゃなくって!」とへレス。

「あ、でも捕まえていいぞ?それも旨いから!」

とアスティ。


二人は心配そうな顔をして俺を見ている。いや?

俺じゃない。見ているのは。

俺は後ろを振り向く。

「だあああああ!」俺は泳ぐ!


人はこれほどまでに速く泳げるのか!と

言うほどに!


「早く言ってくれ!死んじまうじゃねえか!」

おれは川を指さし声にならない声で怒る。


6匹のワニっぽいナニカがいた。


へレスが弓を構え矢を放つ。それは

ワニ(仮名)の眉間を打ち抜く。

「多分死んだから取ってきて!」とへレス。


「やだよ!まだ5匹いるじゃねえか!」と俺は

へレスの、15歳の少女の胸ぐらをつかむ。

「しかたねえぁ。」とアスティは言うと

剣を持ち、川に入っていく。


「し、師匠!死んじまうぞ!」と俺は

心配してやったが・・・。


ワニ(仮名)はアスティに近づこうとするが

弾かれ、海老ぞりをしながらぶっ飛ぶ。

アスティは矢の刺さったワニ(仮名)のしっぽを持ち

川岸に上がってきた。「ほらよ」と。


「な、何をしたんですか?」と俺は驚き

アスティに聞いた。

「気合いでぶっ飛ばした」と平然というアスティ。

「はい?」と俺。「いや、まじで」とアスティ。


「アスティ様の技ね!噂に聞いていた通りだ!」

と興奮するへレス。


俺はその技もだが、どうしても知りたい事があった。

それを先に聞く俺。

「ちなみに、コレ。何て名前なんです?」と!


「ワニだ」とアスティ。

「ワニです」とへレス。

俺の中で、仮名が実名に変わった瞬間だった。


ワニを鼻歌交じりで捌いているアスティに聞く。

「師匠のさっきのアレ、なんなんです?」と。

「だから言ったじゃねえか、気合いだって」と

答えるアスティはテキパキと捌いている。


「合気道だ。それをこっちに来てさ。

 初めて魔獣と遭遇した時に使ったんだよ、

 最初は。今さっきもそう。ワニが

 突っ込んできた所に剣を合わせただけだ。」


「え?剣を振ったんですか?」と驚く俺。

(見えなかった・・・。剣筋が。と言うよりも

 抜く所さえ見えなかった)と俺は衝撃を覚える。


「何故斬らなかったの?」とへレスは聞くと

「斬っちまったら、他のワニへの対応が遅れる」

と肉を鍋にぶち込みながら答える。


アスティは俺を見ながら言う。

「そのうち見えるようになるさ。俺の

 太刀筋なんて」と。


「俺はもう、この大陸で10本の指にも

 入らない。サボりすぎたからな、ここ数年。

 だから一から出直すんだよ」とも言った。


「ってかお前使えるだろうに、合気道。

 特戦群なんだから」と火を熾しながら言う。

「ま、まぁ。その辺りは。はい。」と俺。

「しかし剣でよくできますね。」とも聞く。


「枝でもできるぞ?」と枝を持ち火にくべる。


「やってみるか?肉が煮えるまで」とアスティは

立ち上がり俺を見ながらニヤッとする。


そりゃやるに決まってるじゃねえか。

アスティはどう見ても合気道の「上手い」人だ。

「俺だって、だてに訓練してきたわけじゃないですよ?」

と言いながらも『盗む』つもりで練習を受けた。


約10分ほどたつ。

「なんだ、なんだ。今の特戦群ってそんなモノか。」


「くっそ。マジか。俺もう50回転くらいしてるぞ。

 それに腕が痛てぇ」と肘を抑える。


「昔を思い出すよ」と言いながらアスティは


俺が自衛隊に呼ばれた時、くすくすと笑われたよ。

二十歳そこそこの若造が「教える」っていうんで。

でもな、歳じゃねえんだよ。

お前より回ってたぞ。そいつら。でも、

最後は凄かったなぁ。俺も2回ほど回っちまった。


「お、煮えたかも?」とへレス。


俺達はワニ(実名)の肉煮込みを食べた。














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