第9話 門出
「え?」と俺。
「へレスは今のままでは駄目なの?」と
女将は言うと、さらに
「少しずつ、そう。この街で依頼をして
いけばいいじゃない」と。
「違うし!それ冒険者じゃないじゃない。
只のお使いじゃない。」と反論する。
このままじゃ只の親子げんかになりかねないので
俺はついつい、口論に参加してしまった。
「冒険者ってそんなに魅力なんですか?」と。
「そりゃそうよ!」とへレス。
「普通に職に就いた方がいいの!」と女将。
「ごめんなさい」と俺。
「女将はさっき、王女直属の騎士って
言ってましたけど、それ偉いんです?」と
聞いてみた。
「偉いと言えば偉いわね。」と不貞腐れながら
へレスは言う。
「まぁ国の、それも王女の警護だからね。
それなりにお給金貰っていたわ。」と
どこか自慢げに女将。
「やっぱ、ソレになるのは大変なんですか?」
とも聞いてみると。
「運よ!運!」とへレス。
「そうねぇ、街での剣術の大会があって
それで優勝したのよ。
そしたら偶然いた王家の方、
それも王女が声を掛けてくれたの」と女将。
「・・・運ですね。」と俺。
まぁでも、声を掛けられるほどの実力が
あってこそだろうが。
「へレスさんはそういった職に興味はないの?」
と今度はへレスに聞いてみる。
「あるにはあるけど。私は剣は使えないから」
と少し俯きながら言った。
「練習とか・・・」と俺がそこまで言うと女将が
「この世界はね」ときりだす。
生まれた時に決まっているのよ。扱える武器が。
神の加護で。私は剣だった。そしてへレスは
弓の加護だった。そう言う事よ。
「どうやっても使えないんですか?」と聞いてみる。
「そうねぇ、勇者さんとか使えるみたいね」
と女将はワクワクする一言を言った。
「ゆ、勇者!いるんですね!」と俺は目を輝かせ言う。
おっといかん。話がそれる。
「へレスさんって剣使いたいの?」と聞くと
「そんなわけないじゃない。私弓好きなんだから。
弓で有名になってジェニ様のお役に立ちたいの!」
と目を輝かせ、鼻息荒く言った。
「なるほど。じゃあ冒険者で名前を売って、
その、ジェニ・・・様?の役に立ちたいんですね。
立派な夢じゃないですか」と俺は女将を見ながら言った。
話の流れ的に弓はどうやらハズレ職だ。
しかし、この少女はその立場にありながらも
悲観はしていない。い、いや、してたかも。
俺だってそうだ。元々不幸だからと言って
その現状に甘んじたくはない。
俺は意を決してへレスに言う。
「俺、本当に強かった?魔獣を倒す時」と。
へレスは頷き、
「武器もあるかもしれないけど、凄く強かった。
一撃だったから何とも言えないけど。
初めてとは思えないくらい。色々な冒険者を
見てきたけど、『さまになってる』っていうのかな。」と。
女将はそれを聞き
「なるほど。『さまになってる』のか。
じゃあ強いだろうね」と。
「じゃあ俺は強いんですね。」と切り出し
「俺がへレスを雇います。そして有名に
して夢を叶えさせます。異世界の俺が雇うんです。
それもランクBの3です。どうでしょうか!」と!
「どうでしょうか!」とさらに力強く言うと
「へレスはランクAよ?それも2」と女将。
「私はランクAよ?それも2」とへレス。
「俺より上じゃねえか!」と吹き出しながら
のけぞってしまった・・・。
まぁそりゃそうだ、昨日来たばっかりだし。
俺は刀を机に置く。女将に見てほしくて。
「これが俺の武器です」と。
女将は刀を取る。そして鞘から刀を抜くと
真っすぐに刀を持つ。
(持ち方が様になってるな、すげえ)と
俺は感動した。さすが元近衛兵さん。
体を少し横にし、刀をそのまま重力に任せ
机に向け振り落とす。
机の角が斬り落とされると同時に
刀を俺に向け振る。
「流石ね。まだ武器あったんだ。
その慎重さは好きよ?」と女将は言う。
刀を女将が手にした瞬間に俺はふくらはぎに
括りつけていたサバイバルナイフに手を添えていた。
それに気づいていたのか。
「いい刀ね。というよりも凄い刀。でも私には
少し軽すぎるわ。異世界の素材なのね。」
そう言うと鞘に仕舞う。そして
「そうねぇ、私が王女について行ったときは
14歳だったわ。思い込んだら動かない意思。
血筋かもね」と少し寂しげに笑う。
「偉くなって早く私を楽にさせてね」と女将は
へレスに言うとへレスは「え?」という顔をし
「い、いいの!?」と大声で返事をする。
「そのかわり、シンさんに従うのよ?
アンタの方がランクは上だけど。そして
たまには戻ってきてここに『泊まり』なさい。
安くしてあげるわ」と笑う。
へレスは喜びの余りに泣き出してしまう。
よっぽど旅に出たかったのだろう。
しかし・・・。何故。
あぁ、そうか、白馬に乗った王子様を
探したいのか。いや、国主様か。
なるほどね・・・。
そして朝を迎える。
おれが2階から降りてくるとすでに
へレスは準備をしていた。
トートバッグを持って!なんか色々と
入っていてもうパンパンに膨らんでいる。
「あら、可愛い袋ね」と女将。
「それもいいけど、コレも持っていきなさい。」
そうして朱色の小さな箱が付いたペンダントを
へレスの顔の前にぶら下げる。
「所有者は変えておいたわ。アイテムボックスよ」と。
へレスは驚く。そりゃそうだ。よっぽどの人しか
持てないアイテムボックスを母が持っていたのだ。
(そりゃそうだろうな。王女の直属だ。)
俺は何故か、女将の過去には踏み込んではいけないと
思った。直感的に。
というよりも聞かないほうがいいと思った。
「最初は身の丈に合った依頼をこなすのよ。
まずは名前を売りなさい」と女将。
「バカ娘だけど、よろしくね。」と女将。
「そんなに俺を信じていいんですか?」と
俺は聞き返すと
「こう見えて娘は人を見る目があるのよ。
私ほどじゃないけどね」と笑うと
「さっさと行きなさい!」と女将は二人の
背中を押し宿屋の外に出した。
無言で歩く二人。俺はある事を思い出す。
「ああああ!宿代!1日しか泊まっていないのに
銀貨3枚と銅貨4枚!」と!
女将のほくそ笑む顔が脳裏に浮かんだ・・・。
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