第8話 弓使いの今。

その後淡々と時が過ぎる。

「ご、ごちそうさまでした」と俺は手を合わせる。

「なぜ、異世界から来た事を隠すのですか?」

と食器を片付けながら女将は言う。


「そ、そりゃ。目立つじゃないですか。

 それになんか『違う奴』と思われるかも」と

食後のお茶を飲みながら答える。


「目立ったらダメなの?」と女将。

そして冒険者について教えてもらった。


冒険者はランクで決まる。

なにかの依頼をする時や依頼をかける場合

SやSSだと人が集まりやすくなる。

大規模戦や、いわゆる遠征でのボス戦など

人数が多いほど討伐数が稼げる。


なんだかんだ言ってもランクが全てなのよ。


これがAやBだとなかなか集まらない。

そりゃそうだ、みな失敗はしたくないから。

強い奴について行った方が稼げる。


「ソロプレイヤーとかは?」と質問すると

「そろぷれいやー?とは?」と聞き返された。


「あ、単独で依頼をこなす人の事です。

 『ぼっち』ともいいますが」と教える。


冒険者は稼いでナンボよ?一人より二人。

二人より三人の方が稼ぎになる。

よっぽどの事情がない限りそう言う行動はしない。

「特に」と前置きをされ言われたことは

「レア素材を目的とする場合は一人では無理ね」


俺はお茶を飲む手を止め、正直に話してみた。

「この世界に来た理由はレアなモノを

 手に入れて向こうに持ち帰る事なんです。」


それならなおさら名前を売ってSやSSに

速くなるべきね。『異世界の者』が強いのは

この世界に住む者は皆知ってる。

お近づきになりたいと思ってる者は多い。

だって、『くいっぱぐれ』がなくなるから。

でも『異世界の者』と組んだことがあるのは

ほとんどいない。眉唾物で見られるかもしれない。


ならば、堂々と名乗って実力を見せる方が

手っ取り早い。仲間なんてより取り見取りよ。


「素材は取り合いになりませんか?」と聞くと

「折り合いを付ければいいのよ。簡単よ」よ女将。


「へレス」と女将は声をかける。

「あなたはお金と素材、どっちが欲しい?」と。


「お金!まじお金!」と何故かこぶしを握り締める。

「あなたは?素材よね?ほら、折り合いがついた」と笑う。


でも気を付けないと変な輩も近づいてくるから。

まぁそんなところもあってランクBの3なのよ?と

教えてくれた。


「ねぇ、お母さん。私がギルドで

 仲間に入れてもらえないのはなんで?」と。

「そりゃアンタが弱いからよ。」と女将バッサリ。


「え?十分強いじゃないですか」と俺はフォローしたが

それに対して女将は

「そう言う事じゃないのよ。集団戦で弱いのよ。」と。

「連携ですか?」と聞くと、女将は頷く。


「ひとりで行動する事が多い者は必ず

 自分で全てをしようとする。それが連携を乱し

 時間がかかったり、失敗したりする」

そう言うと女将はへレスを見る。

へレスは視線を外し、別の方向を向く。


「わ、わたしだって!がんばってるし!」と

へレスは言うが・・・。

「個人戦では強いと思うわ?年齢に比べれば。

 でもね・・・。」と少し寂しげに女将は言う。


「私が弓使いだから!?」と急に立ち上がり

少し涙ぐむへレス。

「弓だって強いんだから!ジェニ様だって!

 弓使いだし!」と大きな声で反論する。


「じゃあ、ジェニ様以外の有名な弓使いは?」

と女将は言うとへレスは口をつぐむ。


「あ、あのお!」と俺はちょっと大きめの声を

出し聞いてみる。

「武器によって、やっぱりそう言うのあるんです?」


女将は答える。


やはり剣。なんだかんだいっても剣。

その次に魔導士。

そして短剣使いや槍使い。そして斧。

そして補助系の魔法を使える扇や琴。


「回復系は?」と俺は聞くと


数年前からあまり必要とされていないわ。

火力で一気に叩く戦術が確立されてね。

回復薬をがぶ飲みするやり方ね。

「大規模討伐戦は後方待機で戦線には

 入らないわ」とも言う。


俺は救護班を思い浮かべてしまった。


俺はへレスを見る。へレスは涙を浮かべている。

「弓を中心とした編成は少ないんですか?」と

女将に聞くと「少ないというより、無い」と言い切る。


「じゃあ、弓中心の編成を作りましょう」と

俺はへレスをみながら言う。


「向こうの世界では」と前置きをし俺は話す。


ほぼ接近戦はありません。

こちらで言う弓のような遠距離からの

攻撃が全てです。白兵戦、いわゆる

剣や槍で戦う場合は、その時点で負けている

という事になります。


「その為に前もっての情報を徹底的に集め

 るんでしょ?」と女将は言うと続ける。


「よ、よくご存じで」と俺は驚いた。


昔、コテンパンにやられたことがあるわ。

もう忘れちゃったけど。


「忘れたのか覚えてるのか、どっちだよ」

とは言わなかった俺は優しい。しかし

「女将は軍隊を経験しているんですか?」とは聞いた。


女将はへレスをちらっと見て

「私は昔ね、旧リーラの王女直属の騎士

 だったのよ。色々あって今だけど」と。


話は戻すけど、そういう戦いは魔導士なのよ。

遠距離からの火力は。弓は使わない。

大規模の魔獣討伐でもそう。弓は使わない。


そこまで聞いて俺はある事を思い出し言う。

「隠密性。遠距離からの音を立てない攻撃。

 目立たない攻撃は弓に分があります。

 やはり、弓を中心としたモノは作れます」と。


「なんか、弓を、というかへレスを庇うのね」

と女将は笑う。

「嫁にはやらないからね!」とも言われた。


後3歳!そう18才ならばストライクゾーンだった!

・・・。3年後って俺、いないじゃねえか!多分。


「私!シンさんと仲間になる!お母さん!」と

強い目で訴えるへレス。
























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