きのみinわんだーらんど その③

「ん……」


 急に意識が遠のいたきのみが次に目覚めた時、眼前に迫っていたのは、ナントに比べ明確に巨大な港と、オレンジ色の屋根の建物がひしめくように並び立つ壮観な光景だった。


「綺麗にゃー……」

「リスボンは栄えてますからなあ。王立艦隊が”ライム野郎(※1)”にやられたのは残念だったが、相変わらず新大陸にもインドにも行きやすい。世界で一番の街ですぜ。……さて」


 ゴンザレスはいそいそと置いてあった大樽おおだるから、麻の袋を取り出す。


「船長、これを被って下せえ」

「へ、なんでにゃ?」

「そりゃ、船長はこのまま入ったらその場でお縄だ。適当に船荷にして、うまいこと潜入しましょうや」

「え、何、どういう展開にゃ?」

「全く最近の船長は何かおかしいですぜ。急に立ったままテイシュウハチリョウキーとか、タンヨンデンチーとか言い始めるし……。忘れたんですかい?」

「……うん」

「船長のところの船員が以前、燃える水石油をリスボンに持ち帰った際に、誤ってそれを製材所の樽を乾燥させているところでぶちまけてしかもなぜか火がつき樽は全滅、造船所まで延焼するっていう事件で出禁に……」

「何その詳細過ぎる設定?!」


 さすがのきのみも目が覚める勢いでツッコミを入れる。


「ど、どういうことにゃ……わぷ!」

「はい、早く被った被った。さて、行きますか」


 目の前が暗くなったきのみの意識は、再び遠のいていった。




 ※1……ライム野郎は差別用語なので表現は好ましくないですが、時代考証を前提として使用しております。

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