6-2

 ヴィートは傍らの青年に軽く目をやった。


「紹介する。俺の友人で、ジョーンズ家のグレイだ」

「――初めまして、ルキア嬢、フォシア嬢。グレイと申します」


 紹介を受けた青年は冷静沈着な、ともすればやや冷淡にも響く声で言った。

 青年の眼差しがルキアに向き、それからフォシアに移る。

 目が合い、フォシアは反射的に体が強ばった。――見知らぬ異性が自分を見た時の反応は、いつも同じだ。

 だが、無意識に身構えたフォシアを後目に、青年はゆったりと一度瞬きをしただけで、すぐに視線を逸らした。


 ルキアがちらりと気遣わしげな視線をフォシアに送る。

 ――見知らぬ異性をフォシアが苦手としていることは、ヴィートもわかっているはずだった。

 フォシアの心を読んだかのように、ヴィートは続けた。


「グレイは信用していい。今回の件で協力してくれる」


 力強く、ヴィートは言った。ヴィートはさほど社交的というほうではない。友人が多いというわけではないから、その彼がここまで言うのは意外に思えた。


 ジョーンズ家のグレイと紹介された男は、笑うでも気負った様子を見せるでもなく、かすかに肩をすくめた。


「信用するかどうかはあなたがたの判断に任せます」

「……おい、グレイ」

「信用は強要できるものじゃない」


 ヴィートがやや眉をひそめたのとは対照に、グレイは感情の読み取りにくい顔のままだった。冷ややかに見えるが、それだけ冷静で落ち着いているようにも見えた。


 それが、フォシアにとっては少し意外に思えた。

 グレイという青年のことを、そっと観察する。ヴィートと並ぶと、はかったかのように対照的な容姿をしている。

 貴人にしては日に焼けているヴィートと違い、白い肌、ほっそりとして滑らかな輪郭、高い鼻筋、感情の読みにくい涼しげな目元はいかにも貴公子らしい。ややくすみのある銀髪にも見える灰色の髪を首の後ろのあたりでひとまとめにしていた。


 ヴィートに劣らぬほど背丈があるが、色素の薄さもあってか、ヴィートより細身で繊細な印象が漂う。それでいて、表情があまり顔に出ないためか、冷たく鋭い雰囲気があった。


「今回の件で相談に乗っていただいているということは……、フォシアに協力していただけるということ?」


 言葉のないフォシアの横で、ルキアが少し驚いたような声をあげた。

 ヴィートはうなずいた。


 フォシアは大いに戸惑い、未知なる異性に対する怯えとで反応できずにいた。ルキアがグレイによろしくお願いしますと挨拶したのを見て、ようやく自分もそれにならった。

 グレイはまたあまり表情を変えることなく、


「できる限りのことはします」


 と、傲るでも安心させようとするでもなく簡潔に言った。




 新婚だというのに、ルキアはフォシアにほぼ付きっきりだった。エイブラ側の攻勢は一時止んでも、周囲の目や根も葉もない噂が飛び交っていることにはかわりない。


 フォシアが家から出ない日々を送るということは、側についてくれている姉を実家に縛りつけてしまう状態をも意味していた。それゆえにヴィートがまめにこちらを足を運ぶという状況になっていた。


 ヴィートはフォシアに不快げな顔をすることもない。だが、義妹が招いた厄介な状況を快く思っているはずがない。

 ――なんとかしなければ、とフォシアは思った。だが思えば思うほどどうすればいいかわからず、ヴィートにもルキアにも厄介者と思われているかもしれないと考えるとますます動けなくなった。


 たまには二人で出かけてきて、と言い出したのは、自分がこの状況に耐えきれなかったからだ。

 姉はそれでも心配な様子だったが、フォシアはそのときは少し強引に言い募って、ヴィートと一緒に出かけさせた。

 それでほんの少しだけ、二人に対して抱いていた罪悪感が薄らいだ。――この程度のことでは、二人に償えるはずもないとは思っていても。

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