襲撃

「はあ?なんで魔王が魔物に命を狙われるの?……ああ、そういうことか。さすがは魔族だな。同族同士でも権力争いが激しいのか」

「ぐぐっ……まあ、その通りだ」


 お前らには言われたくない!と内心吐き捨てつつ、争いごとを避けたいリンヤは頷いた。


「それで勇者、ここを出たいんだがお前は戦えるか?」

「無理。剣も剣技も全てスキルで補っていたから、それが無くなれば、僕はまともに振れない」

「な、なんだそのチートご都合主義最強スキルは!」


 そんなスキルなど聞いたこともない。だが相手は天才名門、天使の血を引くメルスケルト家の男だ。

 家系だけが持つ天に愛された力もあるという。そのような、人智を超えたスキルを継いでいてもおかしくはない。

 問題は逆にスキルによって賄われていたその天才的な剣技が、全て無効になっていることだ。


「っこれだから天才様はよぉ!!他に何かスキルはねぇのかよ!」

「うるっさいなぁ人間!!貴様こそ人間なら、なんの力も持たない雑魚じゃない!」

「魔力回路を持たない人間にも、以外と出来ることはあるんだよ!」


 それがどうした、と冷たく言い返そうとしたトルテだったが。

 ふと魔力回路を持たない、というリンヤの言葉に自分も思い当たる節があることを思い出す。


「なるほどね。人間だから、道理で聖なる力に異常な耐性を持っていたのか……」


 かねてから抱いていた疑問だったが、リンヤに魔力回路が無いのなら全て合点が行く。

 道理で勇者の力も効かないのだと、納得する。どんな高等かつ強靭な魔族でも、聖なる力を浴びれば生命力を削られる。それには相応の痛みも伴うはずだ。

 しかしこの魔王にどれほど強い聖なる力を浴びせようと、鎧こそ消耗していたが本体に一切ダメージは通っていなかった。

 それも魔力回路を持たないためだろう。

 魔王アリス……もといリンヤの異様な聖なる力への体制は、メルスケルト国も非常に警戒していた。


「そのからくりが、本物の人間だっからなんてねえ……」


 いざ絶滅したはずの種族を目の前にしても、全く現実味が湧かない。その上相手は、何度も戦ってきた魔王だ。


「ーーーやだぁあっ!ここやだ、もうやだ!お家に帰りたい!」

「っニナレー!!」

「大丈夫だ。大丈夫だからな。あいつもお前を心配しているんだよ」


 再び泣きわめき出したニナレーを、リンヤは優しく宥める。自分ではなくリンヤの助けを求めるニナレーに、トルテはまたイライラしてきた。


(殺すか?いや、向こうの方が明らかに強いし。それに人間を殺すのは不味すぎる。だからか!だからこいつは自分が人間だと明かしたんだ!!それを知ったら、僕はこいつを殺せないから……!くそっ…くそっ…)


 どうすればこの状況を打開出来るのかと考えたその瞬間、凄まじい轟音と振動が城を襲う。ニナレーとラズィの悲鳴が上がった。


「なんだ!?」


 リンヤは子供らを後ろにかばいながら、武器を片手に立ち上がる。

 瓦礫と土煙を吹き飛ばし、現れたのは巨大なドラゴンだった。

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