第35話 できるとか言ってすみませんでしたっ!!
「ねぇ、朝井くん、来てよ!」
「ちょ、ちょ、中村さん、服伸びるから離してくれないか?」
一体何が起きたのか……いや、俺も突然のことすぎて状況が把握できていない。片山と文化祭の準備をしているところに突然来た中村さんは来るなり俺の服を引っ張ってきた。
「おい、目の前でイチャイチャすんなよ」
片山は、俺と中原のやり取りを見てなぜか羨ましそうな顔をする。
「いや、どこをどう見たらイチャイチャしてるように見えるんだよ。てか、見てないで助けてくれ、片山」
「どう助けろと」
「助けなくていいよ、片山。朝井くん、ちょっと来てほしいところがあるから来てよ」
片山にそこから動くなと中原さんは言う。
だからそのさっきから言ってる来てほしいところってどこなんだよ!?
「可愛い妹ちゃんのためを思ってさ」
「妹? 立川になんかあったのか?」
「うんうん、だから来てよ」
「わかったから服を離してくれ」
そんな大事なことがあるようには見えないけど、まぁ、中原さんに付いていくか。中原さんは服から手を離して、満足そうな顔をした。
「じゃあ、片山。今日は先に帰ってくれ」
「おう、わかった。じゃあ、また明日な」
今日の文化祭の準備を後数分やってから片山と帰る予定だった。だが、中原さんに来てと言われたからには片山とは帰れそうにないな。
***
中原さんに付いていき、辿り着いた場所は被服室だった。なぜか中原さんはドアをゆっくりと開けて中に入っていく。音を立てずに入っていくので俺も静かに入っていく。
「じゃ、後はよろしくね」
「えっ、いや、何を?」
「ほら、前見てよ。美奈、さっきここで私がミシンやってるの見てたらそのまま寝ちゃったのよ。寝てるのを無理やり起こすのは可愛そうでしょ?だから朝井くんが連れて帰るの」
中原さんの言われた通り前を見ると美奈さんは机に突っ伏して寝ていた。気持ち良さそうに寝ていて確かに無理やり起こすのは可愛そうだ。けど、連れて帰るってまさか俺が美奈さん背負って家に連れて帰るってことなのか?
「中原さん、さすがにそ──っていないし!」
俺は、美奈さんが寝ていることを忘れて大きな声を出してしまったので慌てて口を抑える。
さて、どうしよう。下校時刻まで後数分だし、ここから出ないといけないよな。ふと美奈さんが突っ伏している机を見るとこの被服室の鍵が置いていた。鍵はここにあるから閉じ込められることはないみたいだな。
美奈さんに帰ろうと声をかけようとすると美奈さんは起きたのか顔を上げた。だが、まだ眠いのかうとうとしていた。
「悠斗……くん?」
「美奈さん、そろそろ閉まるよ」
「ん~、後もう少し……」
声が小さすぎて後半全く聞こえなかったんだが。俺は、美奈さんの隣のイスに座り、眠気と戦っている美奈さんの顔を見ていた。
「もう少しって……じゃあ、おいて帰ろうか」
俺は、独り言のつもりで美奈さんには聞こえてないだろうと思ったが美奈さんは俺の服を掴んできた。これは置いて帰るなということだろうか。下校時刻まで後10分なんだが……どうするのが正解なんだ? 背負って帰るしかないのか。寝ている美奈さんの横顔を見つめているとふと唇の方に目線がいった。
もしあの時ポッキーゲームが続いてたら俺は美奈さんとキスしてたのだろうか。俺はあの時あまりそんなこと考えてなかったが美奈さんは俺としてもいいと思っていたのだろうか。
って、何考えてるんだよ。一緒の家に住んでから、一緒にいる時間が増えていく度に俺は美奈さんのことが気になっている気がする。自分とは別世界の人間だと判断して気にすることもなかった彼女だが今は違う。気付いたらいつも目で彼女を追っている。やっぱり俺は美奈さんのことを……。
けど、好きにならないでって言われてその時、俺、好きにならないってハッキリ言っちゃったしな……。あっ、やっぱごめん、好きになっちゃったわとか言ったら美奈さん、えっ、嘘つきじゃんとか言いそう。
最近は家族でいるため美奈さんを好きになったとしても気持ちは絶対に伝えないと決めたばかりだ。家族である中、好きになんてなるわけないだろと思っていたが夏休み、一緒に過ごしていくうちに俺の美奈さんへの気持ちが変わってきた。
このまま家族でいたいからって気持ちを伝えないのはどうなんだろうな……。伝えてもし気まずくなったら今まで通り美奈さんと話せなくなると思うと……。
「悠斗くん、今、何時?」
「えっ?」
美奈さんは目をつむったまま俺に聞いてきた。
「もうすぐ6時だけど」
「えっ、もう下校時刻じゃん。帰らないと」
美奈さんは慌ててイスから立ち上がり、机の下に置いてあったカバンを持ち、机の上にあった被服室の鍵を手に取る。
「悠斗くん、もしかして私の寝顔見に来たの?」
「寝顔見に来るってどういう奴なんだよ。オレは、中原さんに連れてこられたんだよ」
「伊織が? んー、意味わかんないや。私、別に悠斗くん呼んで来てなんて言ってないのに。まっ、考えてもわかんないし、いいや。悠斗くん、誰かと帰る約束ある? 伊織は多分もう帰ったと思うし帰る人いないんだよね」
先ほどからチラチラこちらを見てくるのは一緒に帰ろうよアピールなんだろうか。
「俺も帰る人いないし、美奈さんさえ良ければ一緒に帰ろうか」
「も~、しょうがないなぁ~。一緒に帰ってあげるよ」
美奈さんはそう言って被服室を出ていく。その後に続いて俺も出た。施錠をした後、俺と美奈さんは横に並んで廊下を歩く。
「なんで上から目線なんだよ。美奈さんが帰る人いなくて寂しいって言いたそうな顔してたから」
「寂しいとか思ってないし。悠斗くんがどーしても私と帰りたそうな目してたから仕方なく帰ってあげようかなって」
「どちらかと言うと美奈さんが一緒に帰りたそうな目してたけど。てか、この言い合い、疲れてきたからやめないか?」
「えぇ、そうね。私も疲れた。ところで悠斗くん。寝てる間にキス……とかしてないわよね?」
「キスしてほしかったのか?」
「なっ、そ、そんな、わけないじゃない!よく、漫画で寝てる子に無意識にキスしちゃうシーンとかあるじゃない」
無意識って……なんか危ないやつだな。お互い好き同士であればいいが、両思いでもないのにそんなことされたら相手から嫌われてバッドエンドの未来しか見えないな。
「漫画の読みすぎじゃないか? それよりメイド服は完成したのか?」
「まだだよ。最初は手縫いでやってて、途中からミシンあいたから使ってやってたけど寝ちゃって……あははは」
「もしかして美奈さん……裁縫も苦手?」
あの時、俺はてっきり考え事をしていて手が止まっているんだと思っていた。けど、今、よく考えて見るとあれは別の意味で……。
「えっ、いや、そんなことないよ? 料理は無理だけど裁縫は────」
***
「できるとか言ってすみませんでしたっ!!」
布と針を机に置いた美奈さんは、俺に向かって謝ってきた。
「別に謝ることないけど。というか君、本当に勉強しかやってきてないんだな」
「勉強以外もやってるよ」
「例えば?」
「見た目よくするための努力」
「へぇー、それは確かに必要だな……」
「なに、その、そんなの後回しでいいだろみたいな目は」
「裁縫苦手なのになんで衣装係になろうと思ったんだ?」
さっき美奈さんがやってるところ見たけどケガしそうで途中から見てられないほど酷かった。
「だって、伊織がやるって……」
中原さん、気付いてるだろうなぁ。美奈さんが裁縫苦手なのに衣装係になったこと。
「よし、今日徹夜して手縫い教えるから今日は寝るなよ」
「えっ、徹夜……?」
こうして夕食、入浴が終わってからすぐに俺は美奈さんにつきっきりで手縫いのやり方を教えるのだった。
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