第36話 君は嘘つきだね

 文化祭3日前となったその日、最後の追い込みとかなんかで放課後はギリギリまで作業することになっていた。衣装は予定の10着が全て完成し、今日は完成したそれを試着するそうだ。ほとんどの男子が朝からその話題で盛り上がっていた。


「うん、やっぱり美奈が一番似合ってるよ」

「ほんとっ、同じ服着てるとは思えないよ」


 美奈さんの友達はメイド服を着ている彼女を見て騒いでいた。人が周りにいてオレがいるところからは美奈さんは見えなかった。


「片山、机とイス足りないらしいから取りに行こう」


 オレがそう言うと片山は驚いていた。


「いいのか?妹のメイド服見なくて……」


「別に興味ないからいいよ」


 自分の気持ちを消すためにもやっぱり美奈さんと顔を合わせる回数を出来るだけ減らすべきだ。会ったら自分の気持ちが抑えれなくなる。家族でいると決めたのなら、美奈さんに好きにならないと言ったのなら、美奈さんを好きだという気持ちを無理やりにでもなくさないと。


 オレは、片山と一緒に教室を出て空き教室に向かった。







***







「似合ってるよ、美奈」


「あっ、うん、ありがとね、森くん」


 嬉しいのに嬉しくない……。なんでだろう。少し前の私だったら多分素直に嬉しいって思えてた。それが嘘偽りの言葉でも。理由は、なんとなくわかってる。似合っていると言ってもらいたい、一番見てほしい人がいるからそう思うんだ。


 教室全体を見渡し、ある人を探すが見つからない。やっぱり……私だけが意識してるんだ。なんか嫌だけどこれでいいんだよね。早くこの気持ちをなくさないと彼を好きになってしまう。だから距離をおくことにしよう。







***







「お疲れ様です」


「あっ、お疲れ~。朝井くん、今から帰るんだよね?」


「あっ、はい」


 学校からバイト先まで行き、6時までバイトしていたオレは、帰る用意をしていると白井先輩に声をかけられた。


「じゃあ、途中まで一緒に帰ろうよ。あっ、途中までっていうのは───」


「駅前ですよね?」


「おっ、そうそう。朝井くん、最近、悩んでそうだから先輩が話聞いてあげようかなって」


 悩み?

 オレ、悩んでいるような顔をしていたのだろうか。確かにここ数日、自分の気持ちの整理でいろいろ悩んだが。


 白井先輩と駅前まで帰ることなり、一緒にカフェを出た。


「で、やっぱり悩み事って恋愛かな?」


「えっ?」


 図星でオレは、黙り込んでしまった。


「あっ、やっぱりそうなんだ。相手は、美奈ちゃんだね。この前、私が彼氏のフリしてほしいって言った時、朝井くん、好きな人がいるから無理だって言ってたよね?」


「言いましたね。答えたくないなら答えなくていいんですけど、先輩はどうしてオレに彼氏のフリを頼んだんですか?」


 あの時、先輩に彼氏のフリを頼まれて断った後は特に会話することなく先輩と別れた。何かしら理由がないと彼氏のフリなんか頼まない気がするけど。


「内緒。それよりさ朝井くんは、何を困っているの?」


 はぐらかされた気がする。知りたいけど多分今聞いても先輩は教えてはくれない。オレは、とりあえず自分が今悩んでいることを話すことにした。


「相手のことを好きになっても気持ちを伝えないって決めたんですけどそれが本当に正解なのかわからないんです」


「正解?なんで朝井くんは、自分の気持ちを伝えたくないの?」


「美奈さんに好きにならないでって言われてるので……」


「お、おう、なんかわけありって感じ……。ところでさ朝井くんはなんで美奈ちゃんが好きにならないでって言ってきたのか……理由は知ってるの?」


「なんとなくは……。家族でいたいから言ったんだと思います」


 美奈さんがなんでオレに好きにならないでと言ってきたのか……。本人に直接聞いたわけじゃないがおそらくオレと家族でいたいからだと思う。オレ自身がそうであるからおそらく。


「思うってことはつまり本人には聞いてないってことだね。で、朝井くんは美奈さんにそう言われたから自分の気持ちを伝えないでいようと思ってるわけ?」


「まぁ……はい。今、気持ちを伝えても彼女は困るだけだと思うんで」


「朝井くんが伝えなくていいって思ってるなら私は伝えなくてもいいと思う。けど、美奈ちゃんとの関係を進展させたいと思うなら即行動するべきだと思う。考えてたら私みたいに取られちゃうかもしれないしね」


 私みたい? どういうことか気になったが聞ける雰囲気でもなかったので今は先輩からの言葉を真剣に考えることにした。


 確かに美奈さんは学年で美少女と言われるほど可愛いし、いつ誰かに取られてもおかしくない。薄々気付いていた美奈さんのオレへの気持ちが消えないうちに行動に出るべきなのかもしれない。


「どうしたいかはやっぱり自分自身が決めないとね。朝井くんの相手を困らせたくない気持ちは私にもよくわかるよ。けど結局は自分がどうしたいかじゃないかな?」


 自分がどうしたいか……。家族でいたいから、美奈さんを困らせたくないから自分の気持ちは伝えずにいる選択肢と、好きだから、関係を進展させたいから自分の気持ちを伝える選択肢。オレと美奈さんが家族にならなかったらおそらくすぐに答えは出ていた。


「先輩、オレ、やっぱり美奈さんに気持ち伝えます」


「うん、それが答えなら後は行動に移すだけだね」









***









「「あっ……」」


家の前に着くと偶然美奈さんと鉢合わせした。美奈さんは制服でどうやら学校帰りのようだ。


「下校時刻まで残ってたんだ」


「うん。伊織と看板作ってたらいつの間にかこんな時間に……。悠斗くんはバイト帰りだよね?お疲れ様」


「美奈さんこそお疲れ様。美奈さん、話したいことがあるから夕飯の後いい?」


「いいよ」


 いつまでもここで話すわけにもいかずオレ達は家の中に入った。





***





「夜なのに暑いね」


 制服を着たままオレの部屋に来てベッドの上に仰向けに寝転び美奈さんは手で仰いでいた。


「窓開けようか?」


「いや、いいよ。袖まくれば涼しくなるし」


「そう。そう言えばなんで制服なんだ?」


 帰ってきてからずっと制服だったため何か意味があるのではないかと思った。


「帰ってからすぐ夕食で、その後すぐに悠斗くんから話があるって言うから私服に着替える時間がなかっただけ。今から着替えるのもいいけどこの後お風呂入ろうとしてたからもうこれでいいやって……。質問ある?」


 質問?

 理由知れたし別に質問はないんだが。


「話したいことだっけ?結構真剣な話?」


 オレの様子から察したのか美奈さんは、起き上がり、イスに座るオレの方に体を向けた。


「まぁ、わりとガチ」


「ほう、ガチですか。何かな?」


「オレ、美奈さんのことが好きです」


 ずっと言うか言わないかで悩んだいたがオレは言うことを選んだ。やっぱりこのまま言わないのはよくないと思いオレは、美奈さんに告白しようと決めた。何かが変わるのは怖い。けど、このまま言わずに後悔する方がもっと嫌だから。


「悠斗くん」


 美奈さんはオレの名前を呼んだ。オレは、次の言葉をドキドキしながら待った。そして彼女はゆっくり口を開いた。


「君は嘘つきだね」




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