第32話 来年も私と過ごしてくれる?
お母さんと幸司さんが帰ってきて、自分の部屋に戻った私は、友達である
『えっ、みーちゃん、カラオケ行ったことないの?』
「うん、ないよ。そんなに驚くこと?」
ちなみにみーちゃんというのは私のことだ。こう呼ぶのは奈由だけ。
『いや、ちょっと意外だなって思って。けど、行ったことないならいつメンで行こうよ』
カラオケか……。家族とも友達とも行ったことがない私にとっては少し行ってみたいところでもあった。けど、私、歌える曲とかないし、行ってもみんなが歌っているのを応援することしか出来ない気がする。
「誘ってくれて嬉しいんだけど私、歌える曲とかないよ?」
『別に無理して歌わなくても。盛り上げ隊でもいいんだから』
盛り上げ隊?
何するんだろう……。
「歌えない人が行っても空気悪くするだけな気がするけど……」
『歌えない曲でも適当に歌えばいいんだよ。まぁ、正直に言うと私が個人的に歌ってるみーちゃんの姿が見たいという欲があるんたけど……』
やけに誘ってくる理由はこれか……。
けど、ここで断ったら二度と誘われないよね。
「奈由がそこまで言うなら行こうかな。いつメンってことは伊織や千夏にも声かけるの?」
『もちろん。あと、森や長谷部達もね。あっ、もしかして朝井くんも誘いたい感じ?』
「えっ?」
なぜここで悠斗くんの名前が出てくるのだろうか。
『も~、みーちゃん、隠さなくていいんだよ?今日、海に行ったこと伊織から聞いたけどお昼食べ終わった後、2人でこっそり抜け出したんでしょ?』
な、何よ、そのデマ情報は……。
確かに食べ終わった後、悠斗くんと話したけどこっそり抜け出してはないんだけど。何を見て伊織はそう解釈したのだろうか。これは後で聞かなければ……。
「2人でこっそり抜け出すとかしてないから。全部伊織の嘘よ。朝井くんとは家族なだけで好きとかそういう恋愛感情は全くないから。カラオケはやっぱりいつものメンバーで行きましょ。無理に朝井くんを誘うのはよくないわ」
『んー、みーちゃんがそう言うなら……。けど、みーちゃんがカラオケ初めてとはねぇ~。うちらが初めて奪っちゃっていいの?』
「語弊生みそうな変な言い方しないでくれる?」
『へへ、ごめんごめん。じゃ、みんな誘って明日、カラオケ集合ね』
「うん、わかった。じゃあ、また明日」
『おやすみ~』
奈由との電話を切り、勉強でもしようと思い机に向かって座わるとコンコンとドアをノックする音がして私は、部屋のドアを開けた。
「どうしたの?悠斗くん」
私が悠斗くんの部屋に来ることはあったが悠斗くんが私の部屋に来るのことはあまりなかった。
「これ、買ったんだけど今から庭でやらないか?」
そう言って悠斗くんは何かが入っている袋を私に渡した。
これは……線香花火?
「やりたい。けど、どうして急に?」
一人でやるために買ったわけじゃなさそうだし、私とやりたいために買ったってわけでもないよね?
「特に意味はないよ。売ってるのを見て無意識にやりたくなっただけ。ただ一人でやるのは面白くないし、美奈さんもどうかなって」
「そう……なんだ……。じゃ、やろっか花火」
***
美奈さんと線香花火をすることになり、庭に出て2人で暗い中、どちらが先に火が消えるのか勝負していた。
「めっちゃ綺麗じゃん。小さくて何か可愛い。悠斗くん、そこにスマホ置いてるから撮ってよ」
勝負している最中というのに頼んでくるのはどうなんだよ。
「後でな。それより、美奈さんの方が早く消えそうな気がするけど」
「えっ、ほんとだ。ん~、消えないで~」
そんなことを言っても変わらないと思うがそう言っている美奈さんの姿は何だか可愛く見えた。学校での美奈さんからは想像できない姿だ。
「勝負なんだし、先に消えた方は、買った人の言うことを聞くルールにしようか」
「えっ?じゃあ、もう私が悠斗くんのお願い聞くこと決定じゃん」
悔しそうな顔をする美奈さんは、消えそうになる火を見つめながら呟く。するとついていた火が消えた。
「あっ……消えた……」
「美奈さんの負けだね。さて、何をお願いしようかな」
「変なこと言わないでよ?出来る範囲でね」
美奈さんは一体、俺がどんなことを考えていると思っているんだ? まぁ、美奈さんに何を言われようとオレは、もう既に決めていたことを言うつもりだ。
「明後日、この前美奈さんに見せた写真のところに行こうとしてるから、美奈さんにも来てほしいんだ」
「そんなんでいいの? もっとほら、前にみたいに買い物に付き合え見たいなやつじゃなくて」
買い物に付き合えって……俺は、そんな言い方したことないんだが。
「そんなんでいいんだよ。で、来てくれるの? 来てくれないの? まぁ、拒否権は当然ないけど」
「なら、行くか行かないか聞く必要ないでしょ。負けちゃたし行くわ。明後日、予定空けとくね」
美奈さんはそう言ってスマホを手に取りスケジュールに入れた。そしてそのスマホを俺に渡した。
「今からもう1回、やるから今度こそ撮ってよ」
「はいはい」
俺は、しぶしぶ美奈さんからスマホを受け取り、美奈さんが線香花火をやっているところを撮った。
その時、俺は、なぜこの線香花火を買おうと思ったのか考えた。誰かとやるために買ったわけじゃない。じゃあ────
「悠斗くん? どうかしたの?」
自分がどんな顔をしていたかはわからないが美奈さんは俺のことを見て心配になった。
「いや、ちょっとぼっーとしてただけだ」
「そう……。もうすぐ夏休み終わるね。悠斗くんは、夏の思い出作れた?」
そうだな……去年よりは充実した夏休みを過ごせた気がする。お祭りに行ったり、花火を見たり、海に行ったり……そして今、こうして美奈さんといるこの瞬間も思い出になる。そう言えば、何かすることに隣には美奈さんがいた気がする。
「去年よりは作れたんじゃないかな……。これも美奈さんが連れていってくれたおかげだよ。ありがとう」
「お、お礼? 私、お礼言われるようなことしてないんだけどなぁ~。私がわがまま言って悠斗くんを振り回してただけなのに」
「美奈さんはそう思ってるかも知れないけど俺は、美奈さんと何かをするのは嫌じゃなかったよ」
「じゃあ、来年も私と過ごしてくれる?」
美奈さんはこちらを見てニヤニヤしながら聞いてきた。
「さぁ、それはどうかな」
「むぅ~、そこはうんでしょ?」
頬を膨らます美奈さんを見て俺は、そのタイミングで写真を撮った。
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