第31話 美奈さんと料理

「えっ、今日は、悠斗くんが夕飯作ってくれるの?」


「何か不満でも?」


「別に嫌とか言ってないじゃん。悠斗くん、私も料理するよ?」


「いえ、結構です」


 海で遊んで帰ってきたその日の夕食は父さんと香帆さんの帰りが遅く、適当に食べといてと言われ俺が作ることになった。手伝ってくれるのはありがたいが、美奈さんが作ると嫌な予感しかしない。


「じゃあ、私は、食器の準備とかやるよ。何もしないわけにもいかないし」


 そう言って美奈さんは食器を棚から出していく。その間、自分は、2人分の夕食を作る。


 美奈さんがこの家に来てからは夕食を作らなくなったのでこうして夕食を作るのは懐かしいなと思ってしまう。料理は好きか嫌いがでいうとどちらでもない。。父さんが料理が出来る方ではないのでお母さんが入院してからは基本的なものぐらいは作れるようになっておこうと思った。


「ねぇ、悠斗くん」


「ん?どうした?」


「私に料理教えてくれない?」


「別にいいけど、急だな」  


「ずっと料理出来ないのは嫌だし、やっぱり将来、料理することは必要だと思うし……。お願い、私に料理を教えてください!」


 両手を合わせて美奈さんは頼んできた。


「わかった。見て作り方覚えろとはいわない、まずは、一緒にやって料理することになれよう。人参の皮って剥いたことある?」


「……さすがにあるわよ」


 今、変な間があったがどういう意味だ? 

 このまま進むと何か起こりそうなので先に手本を見せてから人参とピーラーを渡した。受け取った美奈さんは、一度深呼吸した。


「……じゃあ、いくわよ」


「……いや、ちょっと待とうか。持ち方怖いし、ピーラー動かすのに人参の方動かそうとしてない?」


「えっ、何かおかしい?」


 不安なところがありすぎてケガするんじゃないかと心配になってきた。


「一人でやらせると怖いし一緒にやろうか」


 俺は背後から美奈さんと一緒にピーラーを持ち、もう片方の手で人参を持った。


「悠斗くんと距離近すぎてこっちの方がケガしそうなんだけど」


「まぁ、そこは我慢してくれ」


***


 人参の皮を剥き終わり次は、人参をいちょう切りに。美奈さんにやり方を教えて、切るのを任せた。俺はその間、玉ねぎ、じゃがいも、さやいんげんを切っていく。


「どう?できてる?」


 人参をいちょう切りに切り終えた美奈さんは、俺に聞いてきた。


「できてる。じゃあ次は、フライパンに油を中火で熱して牛肉を入れて炒めてくれる?」


 じゃがいもを切りながら美奈さんに次にすることを言うと美奈さんは困っていた。


「待って待って、やること一気に言われても困るんだけど」


「あぁ、ごめんごめん」


「その言い方ムカつくわね。で、フライパンに油を中火で熱して牛肉を入れて炒める、だっけ?」


 さすが暗記力が得意な美奈さん。さっき俺が言ったことを全て覚えていた。


「うん、お願いするよ。わからないことは聞いてくれたら教えるから」


「わかったわ」


***


 肉の色が変わってきたので俺と美奈さんがそれぞれ切った人参、玉ねぎ、じゃがいも、さやいんげんをフライパンに入れてまた炒める。炒めるぐらいなら美奈さん一人で出来るだろうと思い炒めるのは美奈さんに任せた。


「あっ、わかったよ。今作ってるのって肉じゃがでしょ?」


「今さら気付いたのか?」


「なっ! き、気付いたてわよ!!」


 美奈さんはそう言って菜箸をこっちに向けてきた。炒めながら余所見しないでほしい。


 フライパンに醤油を入れ後は数分炒めて終わりだ。


「出来たっ! 出来たよ、悠斗くん!!」


「見たらわかる」


「も~なんでそんなに冷たいのよ。さっ、ご飯を茶碗によそって食べましょ」


 2人分の茶碗を用意し、それによそう。そして出来上がった肉じゃがを皿にのせた。ダイニングテーブルに運び俺と美奈さんは向かい合わせになって座る。お互いタイミングを合わせて言うことはなくそれぞれいただきますといって肉じゃがを口の中に入れた。


「「美味しい!!」」


 ほぼ同じタイミングで俺と美奈さんは、言った。美奈さんと目が合い気まずい空気が流れる。


「とても美味しいわね……」


「そうだね……」


 なんなんだこの空気は……。別に誰かがおかしなことを言ったわけでもないのに。


「肉じゃが、今度から一人で作れそうか?」


「うん、作れると思う」


「じゃあ、今度は美奈さんに作ってもらおうか」


「えっ、それは無理」


「なんでだよ」


***


 食べ終わって使った食器を洗った。その後は、美奈さんと一緒にテレビを見て父さんと香帆さんの帰りを待っていた。


「あっ、そうだ。私、駅前の本屋でバイトすることになったんだ」


「へぇ、いつから?」


「今週から。だから帰り遅くなるかも」


「わかった……。そういえば夏休み最終日に白井先輩と出掛けることになった」


 そう言うと手に持っていたものを見てと美奈さんから目で言われた。


『へぇ、それは良かったわね。次、あたり告白かしら?』


『なんでわかるんだ?』


『お祭りの帰りに先輩と会ったでしょ? その時、白井先輩から次会った時は告白しよう的な雰囲気があったから』


 そうなのか……俺は、そんな感じはしなかったが、美奈さんにはそういう雰囲気を感じたのだろう。てか、告白しよう的な雰囲気ってなんだよ。


『森と今日、海の時に楽しそうに話してたけど森とはどうなんだ?』


『もしかして嫉妬?』


『嫉妬じゃない。興味本意で聞いただけだ』


『へぇ~、別に森くんとはただの友達だよ。好きとか全く思ってないし』


『そっか……ところでさ』


『何?』


「なんで、途中からメッセージで会話してくるんだ?」

 

「こんな話、お母さんと幸司さんの前で言えるわけないでしょ」


「まぁ……そうだね」

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