第29話 来年、隣にいるのが君であるかなんて今はわからない
「うわぁ~、綺麗だね」
「そうだな」
橋にたどり着くとちょうど花火が始まり俺と美奈さんは、夜空に次々に上がっていく花火から目が離せないでいた。
「感動して『うわぁ~』とか言うのは漫画だけかと思ったよ」
「何か言った?」
「いえ、何も言ってません」
そこから30分ほど俺と美奈さんは言葉を交わすことなく花火を見ていた。隣で花火を見る美奈さんの姿は一度見ると目が話せないぐらい綺麗に見えて……学年一モテる理由がわかった気がした。
花火が終わり俺達みたいに橋から花火を見ていた人達が帰っていく。花火を見ている時は何もかも忘れられて楽しんでいたのに花火が終わると何かが失われたような寂しい気持ちになった。
「なんか終わった後って寂しいね……」
どうやら同じ気持ちだったようで美奈さんは、小さく呟いた。
「美奈さん、今日は誘ってくれてありがとう。お母さんが入院してからお祭りなんて来てなかったからさ……花火を見るのは10年振りだったんだ」
素直な感想を述べると美奈さんは「私も」と言った。帰りは屋台から橋までの移動と同じように俺は美奈さんを背負って家の方向へ歩き出した。
「私も花火見るのは久しぶり……こんな綺麗なものだったなんて知らなかった。こちらこそ一緒にお祭り回ってくれて、花火を見てくれてありがとう。来年も……あっ、悠斗くんに彼女が出来たら無理かもしれないけど……もし、2人とも行く人がいなかったら一緒に来ようね」
彼女というのは多分自分じゃない、もし、一緒に行くなら家族として……と遠回しに美奈さんは俺にそう言った。
「何も変わらなければな……」
1年後の自分がどうしているかなんてわからない。けど、俺は、またこうして来年も美奈さんと花火を見たいと思った。
「そう言えばさ、海行くこと、考えてくれた?」
「海……あぁ、クラスの人達と行くやつか。弘輝が行くっていってたし俺も行こうと思う。何か予定入れてないとバイトしかしていない夏休みになりそうだからな」
「そうだよ! 高校生なんだからもっと高校生らしく青春しなきゃ。バイトもいいけど友達と遊ぶ夏休みも楽しいって」
「美奈さん、その言い方だと俺が友達と夏休み遊んだことがない奴みたいになっているよ」
美奈さんほどじゃないが俺にも友達はいる。美奈さんにとって俺は友達がいない人なんだろうか。
毎年、夏休みは、家にいることが多くたまに友達と遊ぶぐらいだ。海やプールに行くこともなく近くのショッピングモールに行くだけで、遠出をしたことはなかった。
「あっ、ねぇ、悠斗くん。あそこにいるのって白井先輩じゃない?」
トントンと美奈さんに肩を叩かれ前を見ると信号待ちをしている白井先輩の姿を見つけた。
「声かけなくていいの?」
後ろから美奈さんがそう聞くと白井先輩が後ろを振り向きこちらに気付いたのか駆け寄ってきた。
「朝井くん、美奈ちゃん、こんばんは。って美奈ちゃんどうしたの?」
白井先輩は美奈さんを心配した。
「鼻緒ずれしちゃって……」
美奈さんは、小さな声で先輩に言うと先輩はオーバーリアクションを取る。
「えっ、大丈夫なの? 私が背負って家まで送ろうか?」
「だっ、大丈夫です。気持ちだけ受け取っておきます」
「そう? まぁ、男の子である朝井くんの方が美奈ちゃんも安心できるもんね。私が背負ったらもしかしたら美奈ちゃんを不安にさせちゃうかもしれないし。ところで2人とももしかして花火見に来てたの?」
「はい、美奈さんから誘われて見に来ました」
俺がそう言うと隣からなぜか美奈さんが後ろから腕をつねってきた。気が済んだのかすぐに手を離して美奈さんは、白井先輩にニコニコしながら話しかけていた。
「白井先輩も花火を見に来てたんですか?」
「ううん、バイト帰りでたまたま通りかかっただけだよ。2人で花火なんて何だかデートみたいだね。仲良さそうでちょっと羨ましいよ」
白井先輩のその言葉の意味を考えようとしたがその瞬間、美奈さんが後ろで何かボソッと呟いた。
えっ……? 今なんて……。
「悠斗くんは、いいお兄さんなんです。花火が見たいって言ったら私のわがまま聞いてくれたんですよ」
マウントを取るように美奈さんは、作り笑いして白井先輩に言う。
「うん、優しいよね、朝井くんは……。じゃ、私はこれで。またバイトで会おうね、朝井くん」
「あっ、はい。バイト、お疲れ様です」
白井先輩の背中を見送り歩き出した。そして先ほどの美奈さんの様子が気になった俺は本人に尋ねることにした。
「美奈さん、さっき何か言って────」
「忘れて……。別に変な意味ないから」
家の前に着くと美奈さんは無言で背中から降りて家の中に入った。
***
私は、最近思うことがある。それは、発言と行動が矛盾していることだ。悠斗くんに好きにならないでと言って、近くにいると好きになってしまうかもしれないと思い彼から距離をおこうとしていたのに私が最近とる行動は距離をおくというより距離を縮めようとしている。
それは家族としての距離を縮めるものか、自分が悠斗くんの何か特別な存在になりたいから距離を縮めようとしているものか……どちらかわからないけどさっき私は悠斗くんを白井先輩に取られたくないと思ってしまった。
取られても家族でいることは変わらない……なら、やっぱり私は悠斗くんのことが───
「いや、ダメでしょ!!」
一人、ベッドの上で枕を抱き締めて考え事をしていた私は心の声が漏れた。
好きにならないでって言い出した人が好きになるとか絶対ダメでしょ。私は、悠斗くんと家族でいたい……だからあんなこと言ったのに……。
もう、距離感わかんないや……。
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