第24話 誕生日
誕生日である7月14日の朝、父さんからおめでとうと祝われ、美奈さんからも祝われると思っていた。誕生日プレゼント考えててと言っていたのだから当然祝ってくれるだろうと思っていた。だが、学校で話してる時や帰りに少し雑談しいる時にも美奈さんから祝われることはなかった。
これじゃあ、俺が勝手に期待してるだけじゃないか。プレゼントを考えてと言われて1週間前にオレは、美奈さんにプレゼントはやっぱり要らないと言った。だから祝うのをやめたのだろうか。プレゼントを要らないと言った人は祝いませんと美奈さんが言う姿を想像した。
まぁ、別に祝ってもらえなくても何とも思わないからいいか……。
テストも終わり、読書できる時間が出来たのでオレは、夕食を食べ終えた後、部屋にこもってこの前買ったミステリー小説を読み始めた。俺の場合本を一度読み出すとキリがいいところまで読む。キリがいいところを読み終えるまでは誰かに話しかけられても気付かないことが多い。そのせいで何回か友達や父さんに怒られたことがある。
─────30分後。
全体の4分の1を読み、一度休憩することにした。喉が渇いたので椅子から立ち上がり、下の階に行こうとしたその時、コンコンとドアをノックする音がした。おそらく美奈さんだろう。父さんや香帆さんが俺の部屋に来ることはあまりないため消去法で美奈さんだと思った。
ドアを開けるとそこには2つのコップとケーキが乗った皿、そしてフォークが2つ乗ったトレーを持った美奈さんが立っていた。
「夕食の後だし食べれるかわかんないけど食べる?今日はその……あなたの誕生日でしょ?」
「覚えてくれてたんだ……てっきり忘れたのかと……」
そう言うと美奈さんはオレの部屋に入り小さなテーブルにトレーを置いた。
「忘れるわけないじゃない。ほら、座って。一緒にケーキ、食べましょ」
美奈さんに言われたと通りテーブルの前に座った。美奈さんは、俺が座った向かい側に足を崩して座った。
「食べる前に言っとくけどそれ、売ってるものじゃないから」
「えっ、ってことは美奈さんの手作り?」
そう尋ねると美奈さんはコクリと頷いた。嬉しいが俺は美奈さんが料理を作った時のことを思い出した。あのカレーといえないものを作った美奈さんが作ったケーキ……もしかしたらケーキを作るのは上手いとかそういうやつか? 見た目はこの前のカレーの時より悪くない、ちゃんとケーキだとわかる。問題は味だな。
俺の考えていることがわかったのか美奈さんはテーブルの下からオレの足を蹴ってきた。
「食べてないのにこれは大丈夫なケーキだろうか……みたいな顔しないでくれる?友達に教えてもらいながら作ったケーキだから大丈夫よ。この前のカレーみたいにパッと見てケーキってわかったでしょ?なら大丈夫よ」
美奈さんからフォークを受け取り食べようとしたがその前に聞きたいことがあったので尋ねることにした。
「食べる前に聞いておきたいんだけどちなみにこのケーキは味見したの?」
カレーの時は作った本人が味見せずに俺に食べさせようとしていた。
「したよ。美味しかったから多分、大丈夫」
先ほどから大丈夫しか言ってない気がして余計味が心配になってきた。
「祝うのちょっと遅くなったけど……悠斗くん、お誕生日おめでとう」
「……あ、ありがとう……」
祝ってくれたお礼を言うと美奈さんはクスッと笑った。
「今日、私からおめでとうって祝われてなかったからいつ祝ってくれるんだろうって朝、会った時とか学校で話してる時とか考えてたでしょ?」
ニヤニヤしながら聞いてくる美奈さんにオレは、図星であるが考えてないと言う。
「誕生日プレゼントはいらないって言ったし美奈さんから祝われることはないだろうと思ってたから……」
「も~、素直に祝ってもらいたいと思ってたって言えばいいのに。素直じゃないなぁ~」
「思ってないから」
「ふぅ~ん。まぁ、そう言うことにしておくよ。じゃ、ケーキ食べよっか。紅茶も入れたからそれと一緒に食べるのがオススメよ」
美奈さんは、そう言って食べてと言ってきた。
フォークでケーキを刺しすくい口の中に入れる、すると口の中で甘い香りが広がった。
「美味しい……」
「でしょ? チョコレートケーキなんて作ったことなかったけど初めてにしては上出来だと思うの」
俺が食べたのを見て彼女もケーキを食べる。
「うん、お店に売ってるのと同じくらい美味しいよ。教えてもらった友達って中村さん?」
「うん、そうだよ。伊織は、お菓子作りが得意だからね。作り方教えてって頼んだ時、ちょっとめんどくさいことあったけど……」
美奈さんは、その時のことを思い出したのか急に顔色を変えた。一体、何があったのだろうか。
チョコレートケーキを作った時の話を聞きながらケーキを食べているとあっという間に完食した。
「ごちそうさまでした。本当に美味しかったよ」
「良かった。それよりまだ誕生日会は終わってないよ」
そう言って美奈さんは立ち上がり、部屋を出ていった。
誕生日会……いつから誕生日会をしていることになっていたんだ? あと、急に部屋を飛び出した美奈さんは一体どこに行ったのだろうか。
しばらくして美奈さんは紙袋を持って部屋に戻ってきた。
「はい、誕生日プレゼント」
「えっ?」
誕生日プレゼントはいらないと言ったのに美奈さんは俺に持っていた紙袋を渡す。いらないと言うわけにもいかないのでオレは受け取った。
「いらないって言ってたけど、やっぱりあげたくて……いらないなら捨ててもいいよ」
「開けてもいい?」
そう聞くと美奈さんは、コクリと頷いた。
紙袋に手を入れて中に入っていたものを取り出した。
「スマホカバーとコップ?」
「うん。男の子に誕生日プレゼントなんて上げたことなかったから喜ぶかわかんないけど……」
チラッと俺の様子を見てくる美奈さんは、こんなもので良かったのかと不安になっていた。
「ありがとう、美奈さん。大切に使うよ」
そう言うと美奈さんの表情がパッと明るくなった。
「けど……このスマホカバー……オレが使ってるスマホのサイズに合わないよ」
「えっ……ほんと?」
「うん……」
「……そこは……合わなくても言わないのが優しさでしょ」
「そう、だね……」
確かにそうかもしれないが後で美奈さんが『えっ?私からもらったスマホカバー使ってないんだね』とか言って俺が『実はサイズが合わなくて』とか言ったら美奈さんもっと悲しむだろ。
「けど、ケーキ作ってくれたり誕生日プレゼント考えてくれたり、ありがとう、美奈さん」
「どういたしまして。私の誕生日には、誕生日プレゼントとクリスマスプレゼント、両方用意してね」
「一緒じゃダメなのかよ」
「ダーメ。じゃ、おやすみなさい、悠斗くん」
「あぁ、おやすみ」
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