第2章 夏休みの思い出は君と一緒に

第25話 見せなくていいですから!!

 夏休みに入り家族全員で父さんの実家に行くことになった。


 美奈さんは、実家のある場所に着くまで少しそわそわした様子でいた。緊張しているのだろうか。


 県を越えて新幹線で移動し辿り着いた場所はオレ達が住む場所とは真逆の静かな田舎だ。人の多いところと違って寂しい感じがするが俺はこの静けさが好きだ。


 駅からバスに乗り家へと向かう。父さんと香帆さんを隣同士で座らせ俺と美奈さんは、何のやり取りもなく隣同士になって座る。一瞬白井先輩とのことを思い出した。すると隣から美奈さんに話しかけられた。


「この前の白井先輩とのデートはどうだった?」


 バスには俺達しか乗っていないが美奈さんは、小声で聞いてきた。


「楽しかったよ。また今度一緒にどこか行こうって話になった」


「へぇ~、それは良かったじゃない。やっぱり好きなんでしょ?」


 ニヤニヤしながら美奈さんは聞いてきた。


「先輩としては好きだけど異性としての好きじゃない」


「ふ~ん、そっかそっかぁ~。ところでさ8月入ったらクラスの子と海に行くことになってるんだけど悠斗くんもどうかな? 片山くんも誘っていいからさ」


 陽キャ、陰キャでもない俺達がキラキラしているグループと海なんていっても楽しくない気がするが……。


「ちなみにクラスの子って誰なんだ?」


「えっと、女子は私と伊織と千夏で男子は森くんと長谷部くんだよ」


 やっぱそうだよな……森と長谷部陸はせべりくとは全く話したことないし中村伊織や大月千夏おおつきちなつなんて絶対に話題が合わない人達だ。そんな人達と行ってもな……。


「これを機に森くんと長谷部くんと仲良くなれるかもしれないよ? 2人ともとっても優しいから」


「考えておくよ。片山にも聞いておく」


「うんっ、わかった。行くって決めたら教えてね」


 美奈さんと話しているとあっという間にバスは降りるバス停に着きそこから少し歩く。すると大きな古民家が見えてきた。


「もしかしてあの家?」


 美奈さんは、隣で歩く俺に聞いてきた。


「うん、そうだよ。暑いし荷物置いた後近くにある川に行こうと思っているんだが美奈さんも行く?」


「うん、行きましょ」






***






 家に入ると父さんと香帆さんお婆ちゃんに会いに行き俺と美奈さんはというと一人の大人の女性に捕まっていた。


「よく来たわね、悠斗くん。って、逃げようとしないでよ~」


愛美あいみさん、いい歳してベタベタするのはやめてください……。ところで何で愛美さんがいるんですか?」


 抱きつかれたまま愛美さんに尋ねるとオレに体重をかけてきた。お、重い……。


「別にいたっていいじゃない。幸司と偶然同じタイミングで帰省することになったの。で、その子が悠斗くんの妹になった……美香ちゃん?」


「いえ、美奈です。悠斗くん、こちらの方は?」


 名前を間違えられ美奈さんはすぐに訂正し俺に愛美さんのことを紹介してほしいと頼んだ。紹介しようとしたが、愛美さんは俺から離れて美奈さんのところへ行き自分で自己紹介しだした。


「初めまして叔母の朝井愛美です。美奈ちゃんには後で悠斗くんのちっちゃい頃の写真見せて上げるよ」


「ちょ、やめてください」


 愛美さんが美奈さんに写真を見せると言ったので俺は、慌てて止めるが美奈さんは愛美さんに見たいですと言った。


 止めること出来ず……最悪だ。これ以上愛美さんが美奈さんといると今度は何を言うかわからない。ここは早急に逃げなければ……。


「み、美奈さん。川に行こうか」


「あっ、うん」


「えっ、2人で行くの?なら私も行こうかな」


 愛美さんがそう言うので俺は、無視して美奈さんの手を取り家からでる。すると後ろから愛美さんが叫んできた。


「美奈ちゃーん、帰ってきたら悠斗くんの写真こっそり見せて上げるよ~」


「見せなくていいですから!!」


 俺は、後ろを振り返り愛美さんに向かって言う。てか、俺が聞いている時点でこっそりはもう無理だろ。もし美奈さんに見せるなら全力で止めよう。小さい頃の写真なんて恥ずかしくて見られたくない。


「ゆ、悠斗くんいつまで手を握っているつもり?」


「あっ、ご、ごめん!」


 俺は、慌てて美奈さんから手を離す。


「謝らなくても……別に手を繋がれても嫌じゃないし。あっ、忘れ物したから取りに行ってもいいかな?」


「あぁ、うん、いいよ。じゃあ、ここで待ってるな」


 美奈さんは、家に戻っていきしばらく暑いが外で待つことにする。忘れ物取りに行くって言ってたけど今この瞬間に愛美さんに写真見せてもらってるとかないよな?


 5分後、美奈さんは小さな手提げを持って家から出てきた。


「お待たせ。じゃあ、行こっか」


「あぁ、うん……」


 美奈さんはニコニコしながら来たので少し気なったがまぁ、いいか。


***


 家から少し歩いたところに川があり美奈さんは手提げを置いて川の方へ近づく。


「綺麗な川だね。さて……」


「えっ……ちょ、美奈さん!?」


 美奈さんは、突然俺の目の前で服を脱ぎ足すので慌てて背を向ける。


「な、何で急に脱ぎ出してるんですか!?」


「えっ、だって服濡れるし」


「いや、理由になって───」


「なんか勘違いしてない? 私、水着着てるんだけど……」


 えっ……?


 勘違いしていた自分が恥ずかしくなり俺は、おそるおそる後ろを振り返った。するとそこには水着を着て上にカーディガンを羽織っている美奈さんだった。


「も~悠斗くん、何、勘違いしてたの? 教えてよ」

 

 ニヤニヤしながら美奈さんは俺の顔を覗き込んできた。俺は、美奈さんから目線をそらす。


「い、いつの間に着たんだ? 家から着てきたんじゃないだろ?」


 俺は、美奈さんに川に行くなんて一言も言っていない。


「着る機会あるかなって思って持ってきたの。川で遊ぶなら濡れてもいい水着の方が思いっきり遊べるでしょ?」


「川で何する気だよ」


 川はそこまで深くないし普通の服でもいいと思うんだが。


「まぁまぁいいじゃん。ほらっ」


 美奈さんは川に入り水をこちらに向かってかけてきた。


「なっ、俺は、普通の服だからな?」


「いいじゃん、冷たくて気持ちいいから思いっきり濡れようよ」


 どんな誘いだよ。だが、このまま俺が水をかけられっぱなしというのは何か悔しいな。先ほどから美奈さんは話しながらずっとかけてくる。


「やり返さなくて───って、冷たっ」


「仕返しだ」


「むぅ~、やったなぁ~」


 この後、飽きるまで水の掛け合いは続くのだった。







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