第26話 たとえ好きになっても君に気持ちは伝えない

 23時、そろそろ寝ようと思い布団を敷いた。この家は広くて部屋の数も多いので一人一部屋となった。部屋の中は静かだった。


 布団の中に入り寝転んだその時、襖の向こうから声が聞こえてきた。


「悠斗くん、起きてる?」


「美奈さん?」


 寝転んでいたが起き上がり襖を開けた。するとそこには白いティーシャツに膝までの長さのズボンを履いている美奈さんがいた。俺は、美奈さんを見てあることに気付く。


「美奈さん、眼鏡かけるんだ………」


「あっ、うん。普段コンタクトしてるから。それより少しだけ話せないかな?」


「別にいいけど……ここで?」


「立ちっぱなしで話すのはあれだし縁側で話そ」


***


 ゆっくりと足音を立てずに縁側に移動した俺と美奈さんは、並んで座った。隣の美奈さんを見ると少し寒そうな様子だった。


 俺は、そっと美奈さんの肩に自分の薄いカーディガンをかけた。


「えっ……?」


「そんな薄着だと風邪引くからな」


「あっ、ありがと……」


 美奈さんは、嬉しそうな顔をして肩にかけたカーディガンを肩から落ちないようにギュッと手で握りしめた。しばらく二人は沈黙でいたがその沈黙を美奈さんは破った。


「悠斗くん、私ね……悠斗が白井先輩とデートするって聞いた時、物凄い嫌だったの」


 美奈さんが本心を言ってくれて、あの時行かないでほしいと言っていたのはからかうためではないことがわかった。


 からかうためじゃなくあれは美奈さんの本心だったのか……。からかうためじゃないことは薄々わかっていたが俺はあの時気付かない振りをした。


「これが嫉妬なんだって自分でもわかってる。けど、私は悠斗くんの妹だし行かないでほしいなんてこと言ったらダメだったよね?ごめん、困らせて……」


「嫉妬……じゃあ、美奈さんは───」


 この先の言葉を言おうとしたが美奈さんが俺の唇に人差し指を当ててきた。


「それから先は言わないで……。別に自分から悠斗くんにこの気持ちを伝えたいから口止めしてるわけじゃない。言ったでしょ? 私は、あなたのことを好きにならないって。たとえ私が君のこと好きになっても私は絶対にあなたには気持ちを伝えない」


 きっぱりとした美奈さんの宣言に俺は何も言えないでいた。そして俺も美奈さんと同じ気持ちでいた。


「美奈さんと俺は考え方がよく似ているよ。オレも同じだ……。美奈さんのことを好きになっても気持ちを伝えるつもりはない」


 おそらく理由も同じだ。



 だって俺と美奈さんは、『家族』だから。







***







「人を好きになるって難しいわね。嫉妬したからってそれが恋愛の嫉妬かなんてわからないもの。自分にだけに言ってくれる言葉とか自分だけに見せる笑顔とかって仲良くなるにつれてって独占欲が出てきてそれに振り回される自分が嫌になってくる」


 自分にだけそうしてほしいと思うのはそれは恋愛としての気持ちだけじゃない。友達の場合だってある。気になる人と他の人が自分より楽しく話してはいたらそれに嫉妬してしまう。


「私が友達として嫉妬しているか好きだから嫉妬してるかは自分でもわからない。けど、どっちであるかなんてどうでもいいの。好きという気持ちは確かだけど伝えないって決めたから悠斗くんはこれからも私のお兄さんでいてね」


「あぁ、もちろんだ。オレからもお願いするよ。美奈さんはこれからもオレの妹でいてほしい」


「うん、頼まれなくてもそうするつもりだよ」


 この日、この時、俺と美奈さんとの間に見えない線が引かれたような気がした。けど、それでいいんだ……。


「あっ、そう言えば悠斗くんの小さい頃の写真見たよ。可愛かった」


「えっ……?見たの?」


 そう尋ねると美奈さんはコクコクと頷く。


 愛美さん、どのタイミングで見せたんだ?

 今日一日中、愛美さんがいつ美奈さんに写真を見せるのか見張っていたのに。


「愛美さんと連絡先交換して写真送ってもらったの」


 スマホで写真を送れば愛美さんが美奈さんと接触しなくても見せることが出来る。


「あ~もうそんな顔してそんなに見られるのが嫌だったの? 小さい頃の悠斗くん可愛かったのに。見た変わりに今度、悠斗くんには私の小さい頃の写真送ってあげるよ」


「別に見たいなんて一言も言ってないんだけど」


「そんなこと言って見たいんでしょ?」


 俺の隣で美奈さんは、ズボンのポケットからスマホを取り出して写真を見始めた。すると何か思い出したのかスマホで何か検索し、俺にスマホの画面を見せてきた。


「これ、一緒に行かない? ちょうど帰った時にやるお祭りなんだけど友達がみんな予定入ってて行けないんだって。だから悠斗くん、どうかな?」


 美奈さんの友達は俺なんかと違って仲のいい人が多い。その全員が予定が入っているのは少し疑わしいが美奈さんはニコニコしながら俺からの返事を待っていた。


「いいよ」


「やった! 行くなら花火の時間までいようね。去年はいろいろあって見に行けなかったから今年は絶対に見るって決めてるよ」


 そのいろいろが気になりはしたが踏み込んではいけない気がして聞けなかった。


 そう言えば花火なんて小さい頃に見て以来見てない気がする。


「美奈さんの浴衣楽しみにしてるよ」


「えっ、なっ、何で着ていくって知ってるの?」


 美奈さんは、俺の発言に驚き前に言ったことがあるのか必死に思い出そうとしていた。そんな美奈さんの姿を見て俺は思わず笑ってしまった。


「何でって……検索してる時に検索履歴が見えて『男子ウケするゆか───」

「私はそんなワード検索してないから」


 まだ最後まで言っていないのに美奈さんは言葉を遮ってきた。いや、履歴にあったんだから検索してないは無理があるだろ。まぁ、ここは、俺の見間違いということにしておこう。







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