第23話 先輩とのデート
7月12日、白井先輩とのデート当日。
少し早めに集合場所である駅で緊張しながらオレは、先輩を待っていた。集合時間は、午前10時。駅前にある大きな時計を見ると現在の時刻は、9時45分だった。こんなに早いと俺がめちゃくちゃ楽しみにしている奴みたいじゃないじゃないか。まぁ、楽しみであることに間違いはないが。
先輩が改札から出てくるのを待っていると電車が来たのか階段から人が降りてきて改札を通っていく。改札を通っていく人々を見ているとベージュのワンピースを着た人がこちらへ向かって歩いてきた。白井先輩だ。
「おはよー、朝井くん。朝井くんより先に着くかなって思ってたけどまさか先に来ているとは思わなかったよ。かなり待たせちゃった?」
白井先輩は、聞いてきた。ここでかなり待ちましたなんてことを言ったら気合いはいってる奴だと思われるし、遅れてきたわけでもない先輩がごめんと謝罪するかもしれない。
「いえ、今さっき来たばかりですよ」
「そっかぁ~、それなら良かったよ。今日は、天気もいいしお出掛け日和だね。さて、バスで行くんだったよね?」
「そうですね。電車よりバスの方がいいかと。
あっ、丁度来ましたよ」
タイミングよく駅前から出るバスが来ていたので俺と先輩は、そのバスに乗ることにした。
「朝井くん、奥に座る?」
バスに乗り空いている席を見つけた先輩は、俺に尋ねた。
「どちらでもいいですよ」
「じゃあ、奥座るよ。朝井くん、通路側ね」
「あっ、はい……」
ん? ちょっと待てよ。
こういうバスの席ってイスの幅がそこまで広くないから隣に座ったら先輩と物凄い近い距離で座ることになるんじゃ……。
「朝井くん? 隣座らないの?」
「い、いえ、座ります……」
立ったままいるとバスに乗って来る人の邪魔になると思い座ることにした。
「なんか縮こまってない?もうちょっと広く使って座りなよ。あっ、もしかして私が幅とりすぎてる?」
先輩は、奥へ少しより俺が普通に座れるようにしてきた。
「いえ、別にそう言うわけじゃ……」
「眠かったら私の肩にもたれ掛かってもいいよ」
「それはさすがに……」
バスが走りだし数分後、俺は、身動き一つ取れない状況でいた。なぜなら先輩が肩にもたれ掛かってきているからだ。
いや、もたれ掛かってきてもいいって言ってた先輩が俺にもたれ掛かってきてるじゃないですか。
先輩は、物凄く気持ち良さそうに寝ているためもたれ掛かってる状態から無理やり元の位置に戻して上げて起こしてしまったら可愛そうだと思いとりあえずこの状態を維持する。
降りるバス停まで寝かせてあげよう。
***
「ほんっとぉ~に、ごめん!!」
バスから降りると白井先輩は、両手を合わせて謝った。
「謝らなくても……困ってませんから」
「本当にごめんね。まさか私が寝るとは思わなかったよ。その上朝井くんにもたれ掛かちゃったし。もたれ掛かってもいいよとか言ってた自分が恥ずかしいよ」
顔を赤くしながら言う先輩を見ているといつもバイトしている姿からは全く想像できない先輩が見られた気がした。
「まさか寝顔とか見てないよね?変な顔してなかった?寝言言ってなかった?」
一気に質問がきたので何から答えればいいのか困る。
「変な顔はしてませんでしたよ。ぐっすりと気持ち良さそうに寝ていました」
「ま、まじか……。本当にごめんね」
「いいですよ。謝るのはここまでにして目的の場所まで少し歩きましょうか」
「そうだね」
***
「見てみてこの写真、すっごい綺麗だよ」
写真の展示を見始めてからずっとテンションが上がりっぱなしの先輩に最初はそうですねとか反応していたがだんだんと疲れてきた。
先輩のテンションについていけない……。
写真を見ながらそう思っているとある一枚の写真に目がいった。その写真を見ていると先輩が隣に来た。
「いい写真だね。朝井くんは、写真家目指してたりする?」
「いえ、写真を撮るのは趣味なんで将来やりたいわけではありません。先輩は、進路決めてますか?」
「大学卒業したら就職かな。まぁ、何か具体的なことをやりたいわけじゃないから将来どうするかはまだ悩み中。って言ったらお母さんに早く決めろって言われたんだけどね」
そう言った先輩は、へらっと笑う。
「ねぇ、この後、朝井くんと寄りたいところがあるんだけどいいかな?」
「寄りたいところ?どこですか?」
そう聞くと先輩は、人差し指を唇に当て秘密と言った。
帰りのバス、出発前に先輩は何度も帰りは寝ないと言っていた。だが……
「思いっきり寝てるじゃないですか……」
行き先で見たような光景に思わず笑ってしまった。行きと同じで先輩は肩にもたれ掛かっていた。
バスを降りるとまた行きと同じ状況になる。先輩は、何度も謝ってきた。帰りは大丈夫だろうと思ったが今度また同じような出来事があった時は信用しないことにしよう。
駅へ着きバスから降りた後、先輩が寄りたいと行っていたところへ歩いて向かう。どうやらこの近くにある場所らしい。
駅から少し歩いたところで先輩は立ち止まった。
「はい、着いたよ」
「公園ですか?」
立ち止まった場所は公園だった。日が暮れていて遊んでいる子供の姿はなく辺りはシーンとしていた。
「私、昔ここでよくブランコで遊んでたの。朝井くんはここで遊んだことある?」
「小さい頃に何回か……」
「ふふっ、じゃあ、もしかしたら昔会ってたかもね」
先輩は、そう言ってブランコの方へ歩いていき、ブランコに乗って、手招きした。
「朝井くんも乗ろうよ。隣、空いてるよ」
「俺も乗るんですか?」
「別に漕げって言ってるわけじゃないんだし、ここで少しの時間、話そうよ」
先輩は、微笑み俺のことを見た。拒否する理由もないので先輩の横にあるブランコに座った。
「今日は、一緒に展示会に行ってくれてありがとね」
「い、いえ。こちらこそ誘っていただきありがとうございます。先輩と行けて、好きな写真家の写真を見れて楽しかったです」
「も~、いいこと言っちゃってお姉さん嬉しいな。実はね私、君に伝えたいことがあるんだ」
伝えたいこと?
ドキドキしながら先輩の言葉を待つ。すると先輩は、ブランコから降りて俺の目の前に立った。
俺と先輩しかいない公園はとても静かで辺りが暗くなってきたため公園にある街灯が灯った。
「朝井くん、今日、君と一緒にいれて楽しかったよ。だからさまたこうやって一緒にどこかいかない?」
「いいですよ。オレも楽しかったんで」
そう言うと先輩は、パッと表情が明るくなり嬉しそうに笑った。
「じゃあ、次は夏休みにどこか行こうか。行きたいところあればバイトの時とかに教えてね」
「考えておきます」
白井先輩と会うまでは緊張していたがもう今は全く緊張していない。素直にこの時間を楽しんでいる自分がいる。
「さて、帰ろっか」
「駅まで送りますよ」
「いいよいいよ。後輩にそんなことさせるわけにはいかないし」
「外も暗いですし送ります。先輩は、女性ですし一人じゃ危ないです」
「朝井くんより年上だし、大学生だから大丈夫と言いたいところだけど、そこまで言われたら断りずらいなぁ。じゃあ、お願いしちゃおうかな」
ブランコから降り、俺は、先輩を駅まで送ることにした。先輩と駅で別れ、家に帰ると玄関前で座り込んでいる美奈さんがいた。
「美奈さん、何してるの?」
「あっ、お帰り」
「たっ、ただいま……。もしかして帰ってくるまでここで待ってた?」
「ま、まぁ……そうかな。帰りが遅いから待ってた……」
心配してくれたということだろうか。
「ありがと、美奈さん」
「何でお礼? 私が勝手に待ってただけだから」
安心したのかホッとしたような顔をして美奈さんは、リビングの方へ歩いていった。
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