第22話 行かないでほしい

 6月29日、考査3日前、今日は、休日のため俺と美奈さんは、家のダイニングテーブルで向かい合って勉強していた。本当は、自分の部屋でやるつもりだったが美奈さんに教えてもらいたいところがあったのでここですることになった。


 この家には現在、俺と美奈さんの二人だけ。父さんと香帆さんは、二人でどこかに出掛けた。

 

 手に持っていたシャーペンを置き、背伸びをしていると、美奈さんが教科書から目を離して肘をついて話しかけてきた。


「悠斗くん、この前、白井先輩と駅前で話してたよね?」


「えっ……?」


 なんで、それを美奈さんが知っているんだ?

 この前って二日前のあの先輩と一緒に帰った時のことだよな?

 あの時間、美奈さんは、家に帰っているはずの時間じゃないのか?


「私、駅前の近くのカフェで雨止むの待ってたの。で、帰ろうと思ってカフェ出たら2人がいるところ見てさ……」


「うん、一緒にいたよ。先輩とはたまに駅まで一緒に帰るんだ」


「へぇ、そうなんだ……。ところでテスト終わって夏休み終わったら文化祭だね。中学の時はザ文化祭みたいなことしてないから高校の文化祭楽しみだなぁ~」


 ザ文化祭とは何だろうか。

 けど、まぁ、俺も文化祭は楽しみにしている。今通っている高校の文化祭は去年友達と行ってどういう雰囲気なのかは知っている。文化祭が楽しそうというのはこの学校にしたきっかけの一つであったりする。


「楽しむ前にテストを頑張らないとな。これが終わったら夏休みだし……」


「そうだね。悠斗くんは、夏休みは、どう過ごすつもりなの? もしかしてバイト三昧?」


「バイトはあるけど片山とかと遊ぶ予定もあるよ。部活はやってないら自分のやりたいことをやるって感じ。美奈さんは?」


「私は、部活やってないし、バイトもやってないから友達と遊んだり勉強したりかな。私も夏休みからバイトしたいなって思ってるんだけど、どこかいいバイトない?」


「俺に紹介しろと……」


 そう言われても紹介出来るとしたら自分がバイトしているところしかないが……。


「うん。ないかな?」


「思いがバイトしているところはどうだ? もし、他のところがいいなら白井先輩に今度聞いてみるよ」


「ありがと」


 笑顔でお礼を言ってきた後、美奈さんは、勉強を再開した。







***







 テストも終わり返却された7月12日。


「ただいま~」


 玄関から美奈さんの声がして先に家に帰りリビングでテレビを見ていた俺は、玄関へ向かった。


「お帰り。テスト、どうだった?」


 教室で聞こうと思っていたが今日は美奈さんが一人でいるタイミングがなかったので声をかけれないでいた。


「まぁまぁかな。9教科で812点だったよ。悠斗くんは?」


 はっ、812!?……ってことは、1教科90は、あるってことだよな。改めて美奈さんは、凄いなと思った。美奈さんに比べて俺は……。


「ひ、人に言えるような点数じゃないんで……教えるのはちょっと……」


「え~、私は点数言ったのに悠斗くんだけ言わないのはズルくない? まぁ、私が勝手に言っただけなんだけど……」


 靴を脱ぎ部屋に上がった美奈さんは、2階へ上がっていき俺はその後を着いていく。


「あっ、そう言えば白井先輩とのデートはいつなの? テスト終わりに行くって言ってなかったっけ?」


 踊り場につき俺の部屋の前を通ったタイミングで美奈さんは、立ち止まり後ろを振り返った。ちなみに階段を上がって奥が美奈さんの部屋で手前が俺の部屋だ。


「明日だよ。テストも終わったし、明日は、白井先輩も俺もバイトがないからって明日になったんだ」


「へぇ~、楽しみ?」


「えっ?」


「白井先輩と行くの楽しみ?」


 美奈さんは、聞こえてなかったと思ったのかもう一度聞いてきた。楽しみと聞かれたら楽しみだが美奈さんの様子が気になった。


「楽しみ……だよ」


「それは、白井先輩とデート出来ることが?それとも好きな写真家の写真が見れることが?」


「えっ……?」


 なぜそんなことを聞いてくるのだろうか。そう思っていると美奈さんが俺のところへ来てオレにもたれかかってきた。


「行かないでほしい……」


 えっ、今、美奈さん、行かないでほしいって言ったよな……?

 おそらくまた俺をからかうために言ってきてるんだ。だから……って、近いな……。目線を下にやると美奈さんが俺の服を握っていた。


 こうして近くで見ると美奈さんって髪綺麗だな……サラサラしていて思わず触りたく───いや、なに考えてるんだよ。妹だからって美奈さんに馴れ馴れしく触るとかダメだろ!


 俺と美奈さんは、家族……そう決めたんだから好きになってはダメだ。


「み、美奈さん……そろそろ離れてもらっても……。さっきのもどうせ前にみたいにからかうために───」


「そっ、そうだよ。ごめんね、悠斗くん。白井先輩と楽しんできて」


 バッと美奈さんは、俺から離れてそのまま自分の部屋へと入っていった。


 もし、さっきの美奈さんの言葉がからかうための言葉じゃなかったら……。


 もしそうなら美奈さんは……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る