第21話 そんな理由じゃダメかな?

 6月28日、考査4日前、私は、登校するなり伊織にふと思ったことを尋ねた。


「伊織、妹と兄の恋愛ってありだと思う?」


「えっ、何? もしかして朝井くんのこと好きなの?」


「いや、別にそういうわけじゃないんだけどどうなのかなって……」


 自分でもなんでこんなことを疑問に思うのかわからない。けど、気になった。


「ん~、私は、ありだと思うよ。だって義理でしょ?」


「そう……ありなのね」

 

 おかしい……昨日、朝井くんから相談されてから……何かに焦ってる。



───昨夜。



「白井先輩とデート?」


 6月27日、考査5日前、俺は、デートのことに詳しそうな美奈さんにデートというものがどういうものか尋ねた。


「うん、デートって普通に出掛けるのと一緒だよな?」


 デートという特別な言い方をしているだけでやることは友達と出掛けるノリでいいと思っている俺は、美奈さんにそういう認識でいいのかと確認する。


「いや、デートって相手が言ってきてるんでしょ? なら、デートよ」


「でっ、デートなのか……」


「良かったじゃないの。白井先輩、もしかしたら悠斗くんに気があるかもしれないわよ?」


 良かった……か。確かに優しくて、外見もよく、付き合えたらどんなに嬉しいことか……けど、さっき美奈さんから良かったと言われても全く嬉しくなかった。

 一体俺は、美奈さんに何と言って欲しかったのだろうか。


「美奈さんは、誰かとデートしたことあるの?」


「ないわよ。誘われたことは何度かあるけど好きじゃない人とは無理。まっ、私からのアドバイスだけどデートだからってガチガチなる必要はないと思うよ? 写真の展示会を一緒に楽しめばいい。相手も多分いつも通りの悠斗くんと一緒にいたいと思うし……」


 いつも通り、自分らしくいた方がいいのか。変に緊張してたら楽しめることも楽しめないもんな。


「ありがとう、美奈さん。普通に楽しむことにするよ」


「うん、それがいいよ。ところでさ、その写真家って誰なの? 私、悠斗くんが写真好きなの知らなかったよ」


「聞かれなかったからね。写真は、見るのも好きだけど撮る方が好きかな。趣味でいろんなところ行って写真を撮いるんだ」


 カメラでも撮っているがスマホでも撮っているためスマホで美奈さんに今まで撮ってきた写真を見せた。

 すると、美奈さんは、俺からスマホ取りその写真を見てテンションが上がっていた。


「うわぁ~、凄い綺麗な星だね。他の写真もある?」


「あるよ。スライドさせたら……ほら」


「何ここ、行ってみたい!」


 去年一人で行った紅葉が綺麗な場所に行った時に撮った滝の写真を見て美奈さんは、俺のことを見てきた。


「秋になったら行くつもりだけど美奈さんも一緒に行く?」


「うん、行きたい」


「覚えてるかわからないけど行く時は美奈さんに声をかけるとするよ」


 美奈さんからスマホを返してもらい部屋に戻ろうとするのティーシャツの裾を後ろから掴まれた。

 グイッと引っ張られ俺は、後ろを振り返る。振り返るとそこには下を向いている美奈さんの姿があった。


「美奈さん? どうかした?」


「……な、何でもない……」

 

 美奈さんは、裾から手を離し、ソファに座ってテレビを見始めた。


 なんだったんだ?





***





 そして、現在に至る。

 あの時、何で引き留めようとしたんだろう。

 朝井くん、めっちゃ困ってたよね……。


「美奈、今日はどこで食べる?」


 お昼休みになってから数分たち周りの子は、昼食を食べ始めていた。

 私は、後ろの席を振り返るが朝井くんは、もう片山くんと一緒に教室を出ていっていた。


「今日は……教室かな。みんな、一緒に食べよう。ほら、伊織行くよ」


「あっ、うん」


 私は、お弁当を持ち、伊織と一緒にグループの子達が集まるところへ行く。するといつも通りすぐに歓迎してくれた。




***




 放課後、私は、勉強しようと思い、5時まで勉強することにした。私は、帰られる前に後ろを向いて朝井くんに声をかける。


「朝井くん、今日もバイト?」


「いや、今日はないよ。みな───立川は?」


 今、朝井くん、美奈さんって呼ぼうとしたよね? 

 私は、ついそれに笑ってしまい、朝井くんは、何が面白いのかという顔でこちらを見ていた。


「学校でも美奈でいいよ。私も今日から悠斗くんって呼ぶから。もう私と悠斗くんが一緒に住んでること他の人が知ってもいいしね」


「それもそうだな……。で、美奈さんは、今日も残って勉強?」


「うん、家より学校の方が何か集中出来るし……家だと誘惑するものが多くて……」


「誘惑するもの? 例えば?」


「スマホ、テレビ、ファッション雑誌とか?近くにあったらそれ見ちゃうんだよね」


 私の場合、家にいると全く勉強が進まないので誘惑するものがない家の方が勉強が捗る。


「あっ、それ、オレもわかる」


「だよね」


 共感してもらえてテンションが上がった私は、咄嗟に悠斗くんの両手を握ってしまった。急だったので悠斗くんは、驚いていた。


「あっ、ごめん。共感してくれる人がいてついテンションが……」


 手をパッと離して苦笑いすると悠斗くんが口を開いた。


「そういうのをもっと表に出してみてもいいんじゃないか?」


「それは絶対にイヤ。共感してくれたことだし、悠斗くんも勉強して帰らない? と言っても今日は伊織もいるけど……」


 職員室に行ったきり帰ってこない伊織の名前を出すと悠斗くんは、荷物を持った。


「いや、やめておくよ。君と中村さんの中にオレがいたら気まずい」


「まぁ、確かに……。じゃ、森くん誘ってならどう?」


 まだ残っている森くんの名前を言うと悠斗くんから却下された。


「森とは話したことないし気まずいことに変わりはない。言っておくけど美奈さんが仲いい人とはオレは、全く関わったことがないんだ」


 それは、知ってるけど……この機に仲良くなったらいいだけじゃん。

 けど、まぁ、こう思うのはお節介かもしれない。


「じゃ、夜、家で一緒にやるのはどう?」


「別にいいが、やけにオレとやりたがるのは何でなんだ?」


「一緒にやりたいだけ……。そんな理由じゃダメかな?」


「いや、ダメじゃない。じゃ、先に帰る」


「うん、またね」





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