第20話 デートしよっか

 雨は強くなっていく中、俺は、カフェから出る前に立川に雨が降っているがどうするのかと聞いていたメッセージに返事がないか確認した。


 返事はなし……まさか傘なしで濡れて帰ってるんじゃないだろうな。傘を人に貸して自分が濡れたら意味ないじゃないか。


 元はといえば、あの時、借りていなければこんなことにはならなかったんだけどな。


 やっと学校の近くの駅前まで辿り着き俺は、一度立ち止まった。


 はぁ、雨の中走るのは、普段走る時よりも体力が奪われるな。


 ふと、駅前の改札前を見ると立川と似た人がいることに気付いた。


 あれって立川だよな?

 遠くから見ても彼女のことは一目でわかる。綺麗な長い髪にうちの学校の制服。間違いない、立川だ。


 彼女の元へ行こうとするとそこに立川ともう一人いることに気付いた。あれは、うちのクラスの森か?


 立川と森は屋根があるところで楽しそうに話していた。森の手には傘が握られており俺は、なぜ立川といるのかがわかった。そっか、傘がないから森の傘に入れてもらったんだ。


 遠くから彼女のことを見ていると急に彼女が遠い存在に見えてきた。


 立川と森が仲がいいのは知っている。互いにカースト上位にいるようなグループにいてオレみたいな奴とは関わりがない人達。立川と家族になって、話す回数が増えて少しでも彼女との距離が近く感じていたが元はといえば立川とは生きてる世界が違うんだ。


 立川と森のことを見ているとなぜか見てられなくなった。俺は、傘の持ち手の部分をギュッと握り、くるっと背を向けてカフェに戻ることにした。






***






「本当にここでいいの?」


 森くんは、駅までていいのかと聞いてきたので私は頷いた。


「ここから家は近いしここでいいよ。ありがとね、森くん」


「じゃあ、また明日学校で」


「うん、また明日」


 森くんが手を振ったので私も手を振り返した。


 さて、雨が止むまで駅前にあるカフェでゆっくりしようかな。


 改札前にあるカフェに入り、私は、雨が止むまで時間を潰すことにした。






***







「あっ、お帰り。美奈ちゃん、大丈夫だった?」


 カフェに戻り、傘を返すと白井先輩から聞かれた。


「あっ、はい……傘、ありがとうございます」


 今頃、立川は、家に帰っているはずだ。森と一緒に帰って……けど、何で駅前に?


 何で駅前で話していたのだろうと今さらだが、ふと疑問に思った。森って電車通学じゃないよな? ならなんで……。


「朝井くん、レジお願いできる?」


「あっ、はい」


 考え事をしていたため、遅れて白井先輩に返事をした。


 午後6時、バイト終わりに約束通り白井先輩と帰ることになった。その頃には雨は止んでいて傘を差す必要性はなかった。白井先輩とは駅まで一緒なのでそこまで一緒に帰ることにした。


 カフェを出てから一言も話していなかったが、駅前に着くと立ち止まり白井先輩は、突然俺に聞いてきた。


「ねぇ、朝井くんは、誰かと付き合ったことってある?」


「ありませんけど……」


 唐突な質問に俺は、なぜ白井先輩がこんなことを聞いてくるのか不思議だった。


「そっか……。さっき話してたご褒美なんだけどさ、私とデートしよっか」


「えっ……?」

 

 デートってデートだよな?

 白井先輩が俺に気があるわけないし、きっと聞き間違いだよな。


「だから、デートだよデート。もちろん、朝井くんが嫌ならいいんだけど、これ、一緒に観に行きたくて……」


 ポケットから取り出した二枚のチケットを白井先輩は、俺に見えるように見せた。チケットを見るとそこには場所が書かれており美術館とあった。


「これって……」


「朝井くん、この人の写真好きって前に言ってたでしょ? 私もあれから好きになってさ……で、今度その人の写真の展示会があるからさ一緒にどうかなって」


「い、一緒にですか?」


「嫌かな?」


「い、いえ、そう言うわけでは……俺なんかでいいのかなと思いまして……」


「朝井くんと行きたいんだよ。ご褒美って言ったでしょ? これは、私からのプレゼント」


 チケットを1枚手元に渡され、俺は、そのチケットを見た。


「ありがとうございます」


「うん。じゃあ、行く日は、さすがにテスト後にするとしてまた連絡するよ」


「はい、わかりました」





***






 ん~、疲れたぁ~。


 カフェで少し勉強をしていた私は背伸びをしてガラス越しから店の前を通っていく人達を見た。傘を差していないことに気付いた私はそろそろ帰ろうと思い、机の上に出していたノートをカバンへ入れる。


 イスから立ち上がり飲んでいた飲み物をゴミ箱に捨て、カフェから出た。


 さて、帰りますか。


 家の方向に向かって帰ろうとすると見覚えのある顔が視界に入った。


 あれって……朝井くんと……前に会った白井先輩……もしかしてバイト終わって一緒にここまで帰ってきたのかな?


 声をかけようと思ったが楽しく話している二人を見ていると話しかけにくくなった。

 邪魔しちゃ悪いよね………。

 先に帰ろう………。


 駅前から離れ私は家の方向へ歩いていく。


 なぜかわからないが先ほどからずっと朝井くんと白井先輩のことが気になる。どんな話をしているか、朝井くんは、白井先輩のことどう思っているのかと……。朝井くんが白井先輩を好きであっても私には関係ないはずなのに……。


 なぜこんなにも彼のことが気になるのだろうか。






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