第13話 完璧な彼女でもどうやら料理は出来ないようです

「「2人で旅行?」」


 夕食を食べ終わった後、父さんと香帆さんから突然明日、日帰り旅行に行くとオレと美奈さんに言った。


 一緒に住むようになってから約2週間、2人で過ごす時間もほしいということだろうか。オレと美奈さんは、すぐに首を縦に振った。オレ達は、もう高校生だ。1日ぐらい親がいなくたってやれる。


「ゆ、悠斗くんは、料理できる?」


 ポッキーゲームをしてから美奈さんの様子がおかしい気もするがそれはおそらくオレもだ。オレ達は、何をしようとしていたんだ?とあの時のことを思い出してしまう。


「基本的な料理は出来る。美奈さんは?」


「で、出来るに決まってるじゃない!」


「そう、なら、昼食は、君が作ってくれるということで……」


「えぇ、任せて」


 自信満々な顔をしていたのでオレは、少し期待した。何でも出来そうな美奈さんなら料理なんて当然のように出来るんだろうな。


***


────翌日の土曜日。


「で、このさつまいもスープは何?」


 キッチンへ向かうとそこにはエプロンをつけて料理をしている美奈さんの姿があった。何とも言えない匂いがしたから来てみたが……。


「さつまいもスープ?どう見てもカレーのルーじゃない」


 何おかしなことを言っているの?みたいな目でこちらを見てくる。カレーのルー? あれ? オレがおかしいのか?


「味見する?」


 味見というより毒味してと言われている気がする。今からオレは、これで殺させるんじゃないかっていうぐらい美奈さんが作ったカレーのルー?は、とてもじゃないけど人が食べれるものではなかった。


 勉強、スポーツが出来て完璧な人だと思っていたがどうやら料理は苦手らしい。


「いや、やめておくよ。ところでそれを君は味見をしたのか?」


 オレがそう尋ねると彼女は首を横にフルフルと振る。


「じゃあ、味見してみたら? 自分が作ったんだし」


 よく見た目悪いけど味は美味しい的な展開があるのでその展開になることを信じてオレは、美奈さんに提案した。


「まぁ、確かに……」


 小さな皿にカレーのルー?を少しだけ乗せてスプーンですくう。そして口にいれた。


「な、何これ……」


 美奈さんは、そう言うだけでスプーンを持ったまま硬直していた。

 

「美奈さん、味どうだった?」


 声をかけると美奈さんは、ハッとして苦笑いした。そして彼女は、ボソッと呟いた。


「悠斗くん、私、1人で料理無理みたい……」


 みたいじゃなくて出来ないんだろ。昨日君が見栄張って出来ると言ったことは、オレにはバレバレだよ。


「わかった。カレーの作り方を君に教えるから今日は、そこで見てるだけでいい」


「あ、ありがとう……」


 美奈さんと立つ場所を入れ替わり、オレがキッチンの前に立ち、美奈さんが作ろうとしていたカレーを作ることにする。作るオレの姿を見て美奈さんは、話しかけてきた。


「悠斗くんは、よく料理するの?」


「たまにだよ……父さんが仕事から帰ってくるのが遅いときとか。買ってきて食べる選択肢もあったけど作った方が安くすむ」


「そうなんだ。料理できる男子ってなんかカッコいいね。私、男子ってバカなことばっかりして家庭のことなんもしないと思ってた」


 なんだその偏見は……。


「そんな印象があるならオレの第一印象が気になるな……」


「悠斗くんは、なんか何に対しても興味なさそうな人って思ってた。クラスのみんなが私の外観見て一度は話しかけていたのにあなたは入学してからあの校舎裏で会うまで一度も私に話しかけて来なかった。周りは、あの子と仲良くなったら得するとか、彼女にしたいとかそんなこと言ってるのにあなたは、興味なさそうで……」


 美奈さんの言うことは、間違っていない。オレは、立川美奈という人間を何とも思っていなかった、なぜこんなにも周りから好かれているのかもわからなかった。彼女のどこがいいか、なぜそんなにも人気があるのか。


「悠斗くんの私の第一印象知りたいかも」


「美奈さんの第一印象?前に言ったと思うけど」


「えっ、いつ?」


「君と会った時だよ。美奈さんの第一印象は、作り笑いとか、言いたくないことをベラベラ話す人……やっていて疲れないのかなと思いながら君のことを見ていたよ。まぁ、だんだん見てられなくなったけどね」


「なっ、聞かなきゃよかった……」


 美奈さんは、暗い顔をして大きなため息をついた。いや、聞いてきたのはそっちだろ。





***





「ごちそうさまでした。美味しかったわ。これ、店で食べたりするより悠斗くんが作った方が美味しかった」


 そんな大袈裟な……と思ったがオレが作ったカレーを食べ終えた美奈さんは、素直な感想を述べてくれたことに嬉しくなった。


「お粗末様です」


 カレーを食べ終わり使った食器を洗い、オレは、外へ出る準備をした。


「どこか行くの?」


 食器洗いをしながら美奈さんは、カバンを持っているオレに尋ねてきた。


「バイトだよ。5時には帰ってくるから」


 父さんと香帆さんが帰ってくるのは、20時。となると夕食も必要だな。先に伝えておかないと美奈さんが勝手に夕飯を作り始めそうなので夕飯は、一緒に作ろうと美奈さんに言っておく。


「わかった。いってらっしゃい」


「行ってきます」


 なんだか不思議なやり取りだと感じたが悪いとは思わなかった。帰ったら待っていてくれる人がいる……そう思うだけで今日も頑張ろうと思えた。






***





「あっ、美奈」


 ショッピングモールで一人雑貨屋でうろついていると友達二人と遭遇した。二人ともよく一緒にいる友達だ。


「伊織と千夏」


 会えて嬉しいよみたいな笑顔で私は二人の名前を呼んだ。すると千夏が私の手を取った。


「せっかく会えたし美奈も一緒に遊ぼうよ。今から渚の誕プレ買いに行くんだけどさ美奈もどうかな?」


「そっか、もうすぐなぎちゃんの誕生日か……うん、二人が良いなら一緒にいいかな?」


 本当は休日ぐらい一人でいたいんだけどここで断るのもあれだしなぁ………。


「もちろん! ねっ、伊織」


「うん、けど美奈にもここに来た目的があるんじゃないの? 無理して私達といることないよ」


「んー、帰りに下の食品売場に寄るだけだし、大丈夫だよ」


「そっ、なら3人でなぎの誕プレ選ぼっか」





***





 家の前まで帰ってきた私は、玄関の前で立ち止まって一度スマホを見た。悠斗くんは、確か5時に帰ってくると言っていたわね。現在の時刻は、5時すぎ。なら、先に帰っているかもしれない。


「ただいま」


 私は、靴を脱ぎ、家に上がろうとするとリビングの方から悠斗くんが走ってきて私の肩をガシッと掴んできた。


「ゆ、悠斗くん!?ど、どうしたの?」


「片山に会わなかったか?」


「えっーと、悠斗くんの友達の片山くん?」


 私がそう尋ねると彼は強く頷いた。今日、私の友達とは会ったけど片山くんには会っていない。

私が首を横に振ると悠斗くんは、ホッとしていた。


「片山くんがどうかしたの?」


「いや、実はさっき片山が家に来てたんだよ。と言っても玄関前で話してただけなんだけど……けど、会ってないなら大丈夫か………。あっ、美奈さん痛かったよね?ごめん」


 悠斗くんは、慌てて肩から手を離した。


「ううん、大丈夫だよ。さて、夕食作りましょ」


「あぁ、そうだな」


 私達は、キッチンへ向かい夕食を作る準備をし始めた。そのタイミングで片山くんからのメッセージが来ていたが悠斗くんが気付くのはその数時間後だった。



『悠斗と立川ってどういう関係なんだ?』







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