第12話 別にやらしいことじゃないだろ?

「悠斗くん、ポッキーいるー?」


 部屋に戻らずリビングでソワァに座りテレビを見ていた美奈さんが2階段から降りてきた俺に振り返らず聞いてきた。


「袋ごとくれんのか?」


 美奈さんのところに行かず俺は、キッチンに行って喉が乾いたのでコップに水を入れながら美奈さんと会話する。


「ううん、私が今食べてるやつで終わり。これ、新商品らしいんだけど悠斗くんにも食べてほしくてさ」


 入れた水を飲み、コップを洗って美奈さんのところへ行く。


「で、何味なの?」


 美奈さんの隣が空いていたのでそこへゆっくりと腰かけた。


「さくらんぼだよ。いる?」


「あぁ、一本だけ……」


 ふとテレビの方に目をやると猫の特集をやっており、美奈さんは、猫が好きなのかなと思った。


「はい、どうぞ」


「あぁ、ありが───!?」


 テレビの画面から目を離し、美奈さんからポッキーをもらおうと美奈さんの方を見ると彼女はポッキーの端を口に加えていた。


 ま、まさかな……。


 美奈さんは、手に持っているポッキーが入った袋からポッキーを俺に渡すかと思いきや中々渡してくれない。


「み、美奈さん……?」


 俺が困っている様子を見れたことに満足したのか美奈さんは、口に加えていたポッキーを食べた。そしてニヤッとしてこちらを見てきた。


「変なこと想像したでしょ?」


「は、はぁ? なっ、何が?」


 美奈さん、絶対にポッキーゲームしようとしてたよな? 俺をからかうためにポッキーゲームをやろうとするフリをしたに違いない。


「あっ、想像したんだ。やらしいなぁ~。それにポッキーゲームってポッキー食べるだけでしょ?」


 まぁ、そうなんだが……。


 差し出された美奈さんからポッキーを1本貰おうとした時、俺は、あることを思い付き、肩が触れるんじゃないかと思うぐらいの距離まで美奈さんの方へ寄った。


「ちょった、悠斗くん!?」


「ポッキーゲームは、ただポッキーを食べるだけなんだろ? なら、別にやらしいことじゃない」


「えっ、あっ、でも……」


 ポッキーゲームのルールは、2人が向かい合い1つのポッキーの端を互いに食べ進んでいき、先に口を離した方が負けというゲーム。お互い口を離さずに食べきった場合は……まぁ、言わなくてもわかるだろう。


「か、家族がこんなことしたらダメでしょ」


「別に家族同士がポッキーゲームをやってはいけないという決まりはないだろ」


「じゃ、じゃあ、私達はポッキーゲームをしないルール追加で──」


「却下」


「なんでよ」


「断ったらペナルティ」


「っ!……や、やればいいんでしょ。やれば」


「離したらペナルティな」


「ペナルティペナルティってうるさいんだけど」


 美奈さんは、そう言いながらも渋々、俺に渡そうとしていたポッキーの端を口に加えた。俺は、美奈さんとは反対の端に口を加えた。美奈さんから食べ初めて少し俺との距離が近くなった。


 や、ヤバい……からかわれたやり返しのつもりが……。


 美奈さん、俺といった順番でどんどんポッキーは、短くなっていく。いつの間にか美奈さん、目閉じてるし。


 これ、考えて食べていかないとオレが美奈さんに……。


 美奈さんの唇が触れそうで触れない距離まで来ようとしていたその時、ガチャと玄関の方から聞こえてきた。オレと美奈さんは、同時にビクッとしてポッキーは、真ん中でボキッと折れた。


「ただいま~。あら? 2人ともどうしたの?」


 そう言ってリビングに来たのは、外から帰ってきた香帆さんだった。俺と美奈さんは、お互いさっきやっていたことが恥ずかしくなり顔を伏せていた。


「な、なんでもないよ、お母さん……」

「な、なんでもないです……」


「そう? なら、いいんだけど……」


 香帆さんは、首をかしげてキッチンへと向かっていった。それを見て俺は、美奈さんに言う。


「失敗したからもう一回やろうか」


「無表情で言うことじゃないんだけど……」






***








 ここで続行するわけにもいかずリビングから俺の部屋へと場所を移動する。


「ねぇ、これ、何かの罰ゲーム?」


 部屋に入るなり普通にベッドの上に座った美奈さんは、足を組み聞いてきた。


「君が変にからかってきたその罰だよ。再開する前に思っていること言ってもいい?」


 俺がそう言うと彼女はん?と首をかしげる。


「部屋に来る度ドカッとベッドに座るのを止めてほしい。それと無用心にベッドに座るのもどうかと思う……もし、知らない奴にこんなことされたら終わりだぞ」


 俺は、美奈さんの目の前に立ち彼女の両肩を持って後ろへと優しく軽く突き飛ばした。押し倒されるなんて思ってもなかった美奈さんは、驚いたまま動かない。


「男なんて何するかわからないんだからもう少し気をつけた方が──って美奈さん?」


 注意していたつもりが美奈さんは、仰向けになったまま俺の手を握ってきた。


「いいよ、好きにして……」


「えっ……?」


 今、美奈さんなんて……


 どう反応したらいいかわからず困っていると美奈さんは、ハッとして慌てて先ほど言った言葉を取り消す。


「あっ、何言ってるんだろう私……悠斗くんならいいやって一瞬だけ思っちゃった……。困らせてごめん、家族だからって無用心すぎた……私達家族だけど私と悠斗くんにも距離ってものがあるもんね」


 俺の手を借りて起き上がってきた美奈さんは、そう言ってベッドから立ち上がる。美奈さんの手が震えていたので俺は、何をしてしまったんだと後悔する。


「美奈さん、ごめん……」


「ううん、悠斗くんは悪くないよ。私に伝えたかっただけだもんね? さて、ポッキーだけど残りの分は仲良く半分こしましょ」


「そうだね」




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