第11話 思ったことは口にすること

 カゴに足が当たり音が鳴ってしまった。これは、もう、誤魔化すことは出来ない。


「い、いるけど……」


 怒られる覚悟で俺は、近くにいることを美奈さんに言う。するとドアの向こう側から美奈さんの声が聞こえた。


「ならさ、私の部屋から服とってきてくれない?服持ってくるの忘れちゃって……」


「自分で取りにいけよ」


「だっ、だって、今、服着てないし……」


「なら、服取りに来るために脱いだ服を──」


「濡れてるから無理!」


 まだ最後まで言っていないのに美奈さんは、ドアの向こう側からこちらへ叫んできた。


 まぁ、濡れた服をもう一度着るのは嫌だよな。濡れてて気持ち悪いし、それに着にくいはずだ。


「わかったよ。で、どこに服があるんだ?」


「部屋入ってからすぐ横にある棚の上にあるやつ持ってきて。あっ、今だけルールとか関係なしに普通に部屋入っていいから」


「棚の上な……少し待ってろ」


 俺は、その場から離れて2階へ上がった。さすがに本人から許可もらったし、ノックしなくていいよな? ドアをゆっくりと開けて中へ入っていく。


「失礼します……」


 美奈さんの部屋に入るのは引っ越してきた日以来だ。入ったことあるがやはり女子の部屋に入るのは抵抗あるな。いやいや、人の部屋見てる場合じゃない。


「棚の上……あっ、これか」


 言っていた通り、部屋に入ってすぐ横にある棚の上に服が畳んで置いていた。それを手に取り、美奈さんの部屋を出た。1階へ降りて美奈さんがいる洗面所へ向かった。


「美奈さん、持って───ん?」


 ドアの前に立ち美奈さんに服を持ってきたことを伝えようとしたが、ドアの向こう側からシャワーの音がした。


 いやいや、おかしいだろ。服持ってきてたのに頼んだ本人、風呂入ってるじゃねぇーか。


 まぁ、何も着ないまま待つのも風邪引くからしょうがないけど……。


「美奈さーん、服、ドアの前に置いとくから」


 目の前のドアと風呂があるドアの2つの扉を挟んで美奈さんに服のことを伝えるため俺は、聞こえるように大きな声で言った。


 さて、伝えたことだし美奈さんが出てくるまでリビングにいるとしよう。服をドアの前に置いてオレは、この場を立ち去った。






***





「あっ、悠斗くん。服、ありがとね」


 洗面所から出てきた美奈さんは、俺が座る隣に座った。


「あぁ、うん……」


 読んでいた本を閉じ、取り込んだ洗濯物が入ったカゴを置きっぱなしのため俺は、イスから立ち上がろうとすると美奈さんがあっと声を漏らす。


「カゴに入ってたやつ、取り込んでくれたんでしょ? あれなら洗濯機回しておいたわよ」


「そうか、ありがとう」


「うん……」


 近いな……てか、なんで隣に座ったんだ? 前も斜めもイスは空いているというのに。


 チラッと横目で美奈さんを見ているとスマホを触りながら美奈さんは、話しかけてきた。


「ねぇ、悠斗くんはさ……好きな子とかいるの?」


「どうして君に言わなきゃいけないんだ?」


「そりゃだって私のお兄さんがどんな子を好きでいるか知りたいじゃん。君だって知りたいでしょ? 私が誰を好きか」


 いや、全く知りたくない。おそらくここで美奈さんに好きな人の名前を一人でも言えば何か面倒なことが起きそうだ。


「好きな人はいない」


「へぇ~」


 面白くない答えが返ってきたので美奈さんは、つまらなさそうにスマホをの画面を見ていた。そしてチラチラとこちらを何度も見てくる。これはもしや……。


「美奈さんは、好きな人はいないの?」


「私? 私は、いないよ。付き合うなら勉強もスポーツも出来る人かな。あと、優しい人」


 ニコニコしながら話す美奈さんは、満足そうだった。なんなんだよこれ……。


「そんな完璧な男はいないと思うぞ。俺だったらしっかりしている奴でも少しダメなところがあった方が好感が持てる……例えば美奈さんみたいな────」


 美奈さんは、俺の言葉を聞いて顔を真っ赤した。


「大丈夫? 美奈さん?」


「だっ、だいじょふ」


 大丈夫と言うわりに顔真っ赤だけど。 そして最後の方ちゃんと言えてない。


「ところで美奈さん。俺に見られてからやってないの?」


「やるって何が?」


 落ち着いたのか美奈さんは、両手を使って顔に向かって扇いでいた。


「校舎裏でストレス発散するやつ」


「あぁ、あれね……あなたに見られてからやってないわよ。今は吐き出せるところがないから困ってるところ。物には当たりたくないし、ずっと思ってること溜め込むといつか無意識に取り返しの付かないこと起こしそうだし」


 む、無意識って……日頃どこまで我慢して溜め込んでるんだよ。


「じゃあ、いい子ぶるのやめたら?」


「それは無理。自分のこと良く見てほしいし、これは自分を守るためでもあるから優等生でいることはやめない」


 自分のことを良く見てほしいというのはオレにも良くわかる。俺も大人に近づくにつれどう見られているかと外見を意識し始めたり、人との接し方を良く考えるようになった。


 だからと言って本当の自分のことをすべて隠していい子ぶることはしない。


 自分のことを相手に好きになってもらうには自分のダメな部分も知ってもらった方がいいと俺は思う。


「美奈さん、俺の前でもまだいい子ぶろうとしてるでしょ? 俺は、もう美奈さんが表裏あることはわかっている……ならさ、俺といる時ぐらいは自分らしくいたらどうだ? 思ったことがあれば口にしてほしい」


「自分らしく……」


「ルール追加……思ったことは、口にすること。人の悪口はさすがに聞きたくないけど、愚痴ならいつでも聞くからさ」


「う、うん……」


 家にいる時ぐらいは、肩の力を抜いてほしい。俺は、ありのままでいる美奈さんの方が好きだから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る