第9話 ダメかな?
週明けの朝、今日も早く学校に来た。誰かが来るまですることがなかったので本を読むことにした。誰もいない教室は静かだった。だが、やがてクラスメイトが登校してきて教室が騒がしくなる。
前の席の人がイスを引いた音がしたのでおそらく立川が来たのだろうと思い、顔を上げたが目の前にいてこちらを見ていたのは、立川ではなかった。
「絶対美奈だと思ったでしょ?」
そう言って意地悪そうな顔をしたのは、同じクラスであり、立川と一番仲のいい
「思ってない。片山だと思った」
「うっそだぁ~、いつも朝、美奈に声かけられてんじゃん。朝井くん、おはようって……」
立川のモノマネをしているんだろうけど全く似てない。それよりもなぜ中原さんは、俺に話しかけてきたのだろうか。俺をからかいに来たのか?
「中原さん、オレになにか用?」
「用は、ないよ。ただ、いつも美奈が話しかけている朝井くんに興味があって話しかけてみただけ。美奈、君と話してる時だけなんか楽しそうで……」
「俺と? 中原さんといる時も立川は、笑って楽しそうだけど……」
思ったことを言うとおかしかったのか中原さんは、笑い出した。
「あ~君、さっきの発言は、ダメだよ~。美奈のことめちゃ観察してますよ発言になってる」
「なっ、別に見てないから。偶然視界に入って思っただけだ」
「怪しいなぁ~。まぁ、からかいすぎは良くないね、ごめん。話しそれたけど、私さ、美奈が無理してるように見えるんだよね……。君もそう思わない?」
無理……おそらくかなり無理しているだろう。口に吐き出さないといけないところまで限界はきているのだから。精神的に……。
「いつもニコニコしてて疲れないかなって思ってるんだけど、それを私が聞くのもあれじゃん。美奈は、美奈でそうしているのには理由があるだろうし」
「で、それを俺に聞かせてどうしろと?」
「いーや、何でも。美奈とこれからも仲良くしてあげてね」
中原さんは、立川のお母さんか何かだろうか。 けど、まぁ、俺と話していることで何かが違うならこれからも立川と話すことにしよう。
中原さんと話していると登校してきた立川が少し驚いたのような顔でやって来た。
「あれ、伊織どうしたの?」
俺と中原さんと話していることに不思議に思った立川は、中原に尋ねる。
「美奈の彼氏がどんな人知りたくて話してたの。いい人そうだね」
中原さんの言葉に立川は、顔を赤くして中原さんの腕を自分の方へ引っ張る。
「ちょ、ちょっと伊織!」
「あれ、付き合ってるんだよね?」
冗談で言っている中原さんの表情から立川をからかっていることはすぐにわかった。
「付き合ってないから! ねぇ、朝井くんからも何か言って」
「あぁ、付き合ってないよ。よく考えみてよ、俺みたいな奴が立川の隣に歩いていいわけがない」
付き合ってるんじゃないかと噂されることは良くあるが実際本当に立川と付き合うとおそらく他の男子から反感を買うだろう。なんであいつなんだと……。
「え~私は、お似合いだと思うけどなぁ。ねぇ、片山もそう思うでしょ?」
中原さんは、俺に用があってこちらに来た弘輝に話を振った。まぁ、当然話を振られても弘輝は、何の話しかわからないだろうけど。
「何の話だよ。てか、中原、昨日貸したノートそろそろ返してくれないか?」
「ノート? あっ、そう言えば貸してもらったっけ……」
ハッと気付き、笑って許してもらおうと思ったのか中原さんは、そーっと弘輝から離れる。
「おい、逃げるな。まだ話は終わってない」
「ごめんって、明日には返すからさ……ねっ?」
「わかったよ」
「ありがと、片山」
弘輝と中原さんの2人が話していると、立川が俺の名前を呼んできた。
「朝井くん」
「ん? なんだ?」
「おはよう」
「あぁ、おはよう……」
えっ、これだけのために名前を呼んだのか?
「ねぇ、ルール追加してもいい? 朝は、おはよう、相手が帰ってきた時にはお帰りと言うこと……ダメかな?」
俺は、気になった……立川の表情が寂しそうに見えたことが。お願いするほどのことじゃないと思うが、おそらく立川さんにとっては、大事なことなんだ。
「いいよ。けど、追加したからには忘れるなよ」
ルールを一度破った人へそう言うと立川は、ふっと笑った。これは、自然な笑顔だ。
「わかってるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます