第8話 楽しむのも良いがここに来た本来の目的を見失うな

 ショッピングモールへ着くなりオレと美奈さんは、オープンしたばかりのパンケーキ屋さんに並び、キャラメルパンケーキを食べる。

 

 その後は、パンケーキを食べている時に盛り上がった小説を私も読みたいと美奈さんが言い、本屋へ。 


 本屋で小説を買った後は、美奈さんが雑貨屋で立ち止まり、約30分店内にいた。その間、俺は、美奈さんに手を引っ張られ、付き合わされていた。


 そこでやっと気付く。ルールを破ったのは俺ではなく美奈さんだったのでは?と。そしてここに来た本来の目的も……。


「美奈さん」


 シュシュ選びをしていた彼女の名前を呼ぶが、彼女は、選ぶことに集中しているため反応はするが後ろを振り返らない。


「ん? どうしたの?悠斗くん」


「本来の目的って何か覚えてる?」


「ん? 目的なんて……あっ、幸司さんの誕生日プレゼントするって言ってたよね」


 やはり忘れていたのか。

 まぁ、俺もさっきまで忘れていたんだが。


「どうしよう、悠斗くん。幸司さんの好きなものって何?」


 気付けば日が暮れる時間になっており、そろそろ帰る時間だった。


「ねぇ、美奈さん。2人で1つのものを選ばないか? 半分ずつお金だして……。多分2人で選んだものなら父さん、喜ぶと思うからさ」


「あっ、それいいね。じゃ、まずは何がいいかアイディア出して探そっか」


「あぁ、いいプレゼントを選ぼう」





***





「喜んでくれるかな?」


 俺の手に持っている袋を見て美奈さんは、ニコニコしながら渡す時のことを考えていた。


「大丈夫だと思うよ。父さん、この前、困ってたらかさ」


「そうだね」


 辺りが真っ暗になり、俺と美奈さんは、横並びで出来るだけ明るい場所を通って家に帰る。駅前を通ると人がたくさんいてはぐれそうになる。


「美奈さん、ここ通らない方が──って、あれ?美奈さん!?」


 気付いたら隣にいたはずの美奈さんがいなかった。さっきまでいたよな? 一体どこに……。辺りを見渡すが美奈さんの姿が見つからない。先に帰ったとかはないよな?


 スマホを出し、美奈さんに連絡しようとしたがそこであることに気付く。あれ?……俺、そう言えば、美奈さんの連絡先、知らない……。


 一緒に住み、こうして出掛けたりしてるからてっきり連絡先を交換していたと勝手に思い込んでいた。こういうときってどうしたら……。


 とりあえず人混みをかき分け、駅前にあるベンチへ座った。目の前にたくさんの人が通りすぎていく。今頃、美奈さん、不安になっていないだろうか。


 無駄にここを歩き回ってもおそらくすれ違うし、見つからない。なら、ここで待っている方がいいのかも。けど、もし、美奈さんも同じことをしていたら……。


 誰かが走ってくる足音がして俺は、スマホから目線を上げた。その足音の持ち主は俺の目の前で止まった。目線を上げた先には、息切れしている美奈さんの姿があった。


「い、いた! 勝手にどこか行かないでよ!」


 今にも泣き出しそうな顔をしていた美奈さんは、俺に会ってほっとしていた。


「急にどっか行ったのは、美奈さんだろ?」


「なっ、悠斗くんでしょ!? 私、どこにも行ってないもん。気になる広告見つけて見に行っただけたし」


 いや、それが原因だろ。


「まぁ、美奈さんが悪いってことだな」


「……ご、ごめん」


 謝った美奈さんは、そう言って俺の隣にゆっくりと腰かける。


「美奈さん、連絡先教えてよ。今日みたいなことがまたあったら困るし」


「あっ、確かにまだ教えてなかったね。連絡先交換しよっか」


 連絡先を交換した後、俺と美奈さんは、家へと帰宅した。


「お父さん、お誕生日おめでとう」

「幸司さん、お誕生日おめでとう」


 俺と美奈さんは、一緒に父さんへ誕生日プレゼントを渡した。スッと手元からプレゼントが入った袋が離れ、父さんは、プレゼントの中身を見て喜んでいた。その姿を見て俺と美奈さんは、互いに顔を見合わせて小さく笑うのだった。


「もう、勝手に迷子になるなよ」


「迷子になってないから。けど、ありがとう。私が見つけやすいところで待っててくれて」


「……なんのことかわからないな」


「意地悪な兄さんね」


 怒りつつ彼女は、笑顔だった。

 また彼女の新たな一面が見れた気がするのだった。

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