第7話 それは変装とは言わない
休日、俺は、外に出ず家に引きこもっていた。やはり休日は、読書に限る。しーんと静まり返る部屋にコンコンとドアをノックする音がした。だが、物語の世界に入り込んでいた俺は、その音に気付かなかった。その後も何度もコンコンと音がなる。
さて、ちょうどキリがいいことだし、読書は、ここまでに──なっ、なんでここにいるんだ? 顔をあげるとそこには部屋をキョロキョロと見渡す美奈さんの姿があった。
「な、なんで美奈さんがここに? それにさっそくルール破ってないか?」
美奈さんは、腕を組みオレのベッドへドカッと座った。
「破ってないわよ。何度ノックしても君が開けてくれないから」
気付かなかったのは俺が悪いけど……ルールは、完全に破ってるな。
「気付けなかったことに関しては謝る。だが、ルール、破ったよな?」
「……や、破ってないし」
「確かルールを破ったら相手の言うことを何でも聞くだったよな? さて、何にしようかなぁー」
読んでいた本を本棚に戻しながら俺は、呟く。
「へ、変なことだったら私、拒否するから」
「拒否? ルールを破った奴に拒否権なんてないだろ」
てか、変なことって何だよ。
美奈さんは、何されると思ってるんだ?
「わかったわよ。で、私は何をすればいいの?」
「そうだな……買い物に付き合ってくれないか?」
「買い物? つまり悠斗くんは、私をパシりにしてたくさんの荷物を持たせたり、買いたいものを私に買わせたりしたいってことかしら?」
いや、俺は、どんな奴だと思われているんだ? 買い物に付き合ってほしいとしかまだ言っていないのに……。
「違う。美奈さんには一緒にプレゼント選びをしてほしいんだ」
「プレゼント? 誰に?」
「父さんに。もうすぐ誕生日なんだ」
「幸司さんの誕生日……私もお祝いしたい。一緒にプレゼント選びしましょ」
ルールを破ったペナルティになっていない気がするが、ペナルティは、これぐらい緩いものでいいんだ。
「じゃ、今から出掛けるか」
「あっ、ちょっと待って。もし、私達が出掛けてるところ見られたら非常に不味いんじゃない? それこそカップルって思われるわよ? 家族であることもバレるかも。だから変装しましょ」
「変装?」
何を言うかと思えば変装って……出会ったら出会ったで偶然会ったとか言えばいいんじゃないか?
「そう、変装よ。じゃ、同じタイミングで家を出るのもあれだし、午前10時に駅前集合ね」
「あっ──ってもういないし」
勝手に話が進み、美奈さんは、部屋を出ていってしまった。俺は、言いたいことを言えないままただ呆然と立ち尽くしていた。
「変装……か」
***
集合時間の30分前、少し早すぎるかもしれないが美奈さんより先に家を出た。服装だが、パッとした明るい色ではなくグレーのティーシャツに黒のズボンにした。髪型だが、特に変えず黒の帽子を被った。
変装といっても変質者と言われないぐらいにしておかないとな。
さて、変装をしようと提案してきた美奈さんは、一体どんな格好で来るのだろうか。スマホで時間を確認していると足音がした。
「悠斗くん、お待たせ」
「あぁ、うん。そんなに待って───」
俺は、美奈さんの服装を見て硬直した。白のワンピースの上に紺色のカーディガン。そしてグレーの帽子。そして眼鏡をかけていた。
普段と違う雰囲気だが、やはり美奈さんは、どんな格好でも可愛い。見た目は、いいんだがな……。
だが、これ、変装の意味あるか?
美奈さんって遠くから見てもわかるんだが。
「悠斗くん?」
「あぁ、ごめん、意識飛んでた。それよりそれは本当に変装したと言えるのか? 俺が見ていつもの美奈さんと変わらないけど……」
変装というならもっと別人になるぐらいの格好をしてこなければならないのでは?
「大丈夫大丈夫。それより外出てる時だけの呼び方を決めない? 悠斗くんって呼んでバレたりするかも」
「確かにそうだな」
「じゃあ、そうねぇ……悠斗くんのことは、悠くんでいい? 私のことは、みぃーちゃんね」
みぃーちゃん……いやいや、すっごい呼びにくいな。悠くん、みーちゃんと呼びあっている俺達の姿を想像したがバカカップルにしか見えない。
「却下だ。やっぱり普段通りの名前で呼ぼう。同じ名前なんていくらでもいる。もし、気付かれたらその時何とかすればいい」
「んー、悠斗くんがそう言うなら。じゃ、幸司さんの誕生日プレゼントを買いに行きましょ」
おそらく友人に立川美奈と出掛けたなんて言ったら羨ましがられるだろうな……。そんなことを思いつつ俺は、美奈さんとプレゼント選びをするためショッピングモールへ向かった。
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