第3話 再婚相手の連れ子はまさかの……

 そう、あの出来事があった日からだ。

 毎日立川は、俺のところに来ては誰かに言ったのかと確認してくる。


 さて、自分の席にいると立川がずっと俺に話しかけてくるし、痛い目線が気になってしょうがない。


 席から立ち上がると立川は、どこ行くのかと尋ねてきた。


「どこでもいいだろ。心配しなくてもあの日のことは誰にも言わない。俺といると余計お前の作り上げてきたキャラが崩壊するぞ。片山、移動教室だからそろそろ行こうぜ」


「おう、立川と行かなくていいのか? お前ら付き合ってんだろ?」


 いつから付き合っていることになったんだよ。


「立川とは友達でもなんでもない」


 俺は、そう言って教科書を持って友人と一緒に教室を出ていた。




***




「美奈、今日習ったここ教えてくれない?」


 移動教室から帰ってきた後、立川の席の回りには数人の女子が集まっていた。全員立川のいるグループの女子だ。


 友達多いな……。


 机に肘をついて前の席の立川を見ていると立川は、中心で楽しそうに笑っていた。これが本当に素直に笑っているかそれとも皆に合わせて笑っているのか。


「いいよ、これはね──」


 立川は、丁寧に問題の解き方を友人に教える。


「うわぁ~ありがと~! 美奈、お礼に今日放課後、パンケーキ食べに行かない?」


 友人からの誘いに立川は両手を合わせる。


「あっ、ごめん。今日は、大事な予定が入ってるの。また今度ね」


「予定?まさか───」


 立川の回りにいた女子数名が一斉にこちらを見てきた。


 えっ、なんなんだ?


「ちっ、違うから」


 立川は、顔を真っ赤にして慌てて何かに対して否定する。


 何が違うのか全く俺にはわからない。


「え~、そんなこと言って付き合ってるんでしょ? 放課後はデートで──」


「誤解しているようだけど、朝井くんとは最近よく話すけど付き合ってないから。席が前後なだけでそんな関係じゃないからね」


 立川は、友人にそう言うが誰もそれを信じないで否定=立川の照れ隠しだと勘違いする。


 そう、立川と俺は、ただのクラスメイト。

 友達でもなんでもない。立川が口止めをするために近づいているだけだ。


「ねっ、朝井くん?」


 立川は、ただのクラスメイトだよねと目で言ってくる。


「あぁ……俺と立川は、付き合ってない」


 気のせいだろうか……。

 立川の表情が一瞬だけ暗かったのは……。





***




───放課後。


 前の席である立川はいつものんびりと教室を出ていくが今日は、俺が帰ろうとしていた時にはもう教室にはいなかった。


 そう言えば、大事な予定があるとかなんとか言ってたよな。


「悠斗、帰ろうぜ」


「あっ、ごめん。今日、予定あってさ父親と駅前で待ち合わせしてるんだよ」


「あっ、もしかして……」


 友人の片山弘輝かたやまこうきは、俺の言葉と表情から察した。


「あぁ、そうだよ。じゃ、そう言うことだから」


 急いで学校を出て俺は、駅前まで走った。

 

 今日の夕食は外で食べることになっている。父さんと2人でというわけではなくあと2人いる。その2人というのは、父親の再婚相手と再婚相手の娘。


 母親はオレが14歳の時になくなりその後は、父さんと2人暮らしだ。家のことをすべて任せるわけにもいかないと思い、料理や掃除など家事をよく手伝うようになった。


 再婚しようと父さんが言い出したのは数日前。あの時は、驚いたけど父さんが幸せならいいと思いオレは、反対しなかった。父さんから亡くなったお母さんのことを忘れたわけではないという言葉を聞けたから。


 再婚しても俺は、変わらない生活を送る。だから再婚だからといってこの日常がガラッと変わることはないだろう。


 駅前につくと既に父さんが待っていた。


「お待たせ、父さん」


「あぁ、悠斗。じゃあ、香帆さんとは予約しているレストランで待ち合わせしてるから行こうか」


 俺と父さんは、駅前から待ち合わせのレストランへ向かった。


「そう言えば父さん。再婚相手に娘さんがいるって言ってたよね? 歳はいくつなの?」


 年上か年下か……どちらでもいいが、少し気になっていた。


「確か高校1年だったかな……あっ、なら悠斗と同い年になるな」


 同い年……まぁ、気を使わなくていいし、子供があまり好きではない俺にとっては同級生の方が気楽でいいな。


 父さんと話しているとあっという間にその待ち合わせであるレストランに着いた。


 少しドキドキしてきたな……。


 レストランに入ると父さんは店員に待ち合わせですといい先に着いている再婚相手がいるテーブルへ向かう。そして一番奥にあるテーブルで立ち止まった。


「こんばんは、香帆さん」


「こんばんは、幸司さん。ほら、美奈も挨拶しなさい」


 ん?

 美奈?

 何か聞いたことがあるような……。


 香帆さんは、隣に座っていて本を読んでいる娘さんに声をかける。そしてその子は、本を閉じ、髪を耳にかけて満面の笑みで俺と父さんの方を向いた。


「初めまして、立川美奈です」


「えっ!?」


 声を聞いた瞬間、俺は、思わず声を漏らした。

 な、なんでここに立川が!?


 立川も驚いていたがすぐにニコッと笑う。


「えっ、もしかして美奈、幸司さんの息子さんと知り合い?」


 香帆さんは、立川に尋ねると笑顔で頷く。


 「知り合いというかクラスメイトなの。まさか幸司さんの息子さんが朝井くんだったなんて……驚いたわ。ねぇ、朝井くん?」


 恐怖ともいえるその笑顔に頷く。


「ほ、ほんとだよ。まさか香帆さんの娘さんが立川さんだったなんて驚いたよ」


「凄い偶然ね。けど知り合いなら上手くやれそうね」


 香帆さんは、両手を合わせ嬉しそうに微笑む。


 上手くやれる……果たして本当に上手くやっていけるのだろうか。


 再婚しても日常が変わることはないと思っていたがそれはどうやら無理そうだ。






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